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「大学無償化法」という嘘をつくメディア各社


大学無償化法

と、前知識なしに聞いた際にどんな法律が頭に思い浮かぶだろうか。多くの人は、
 全ての大学生が学費負担することなく学校に通えるように、地方自治体及び国がその費用を全額負担することを定めた法律
を連想するだろう。 全ての大学生ではなく一部例外があっても「大学無償化」と言えるかもしれない。現にそんな制度がある国は既にいくつかあり、それを連想するかもしれない。「前知識なしに」と前述したのでやや矛盾が生じている感もあるが、他国・他地域の状況に関する知識がなかったとしても、前述のような内容の法律であることを連想するのがごく自然だ。
 逆に言えば、それとは異なる内容にもかかわらず「大学無償化法」という看板を掲げるのは、羊頭狗肉の看板を掲げると言えるだろうし、更に言えば、嘘をついたとすら言えるかもしれない。残念な事に、昨日そんな羊頭狗肉の看板を、日本の主要メディアの殆どが掲げた。自分は、それをやったメディアは、いい加減で事実と異なる記事を書いたり、極端だったり本文と著しく乖離した釣り見出しを掲げるなどを平然と行う、所謂フェイクニュースと呼ばれるようないかがわしいサイトを批判する立場を、自ら退いたように思える。


などが、前段での指摘に該当する。
などのように、「大学無償化・高等教育無償化」という文言を用いずに伝えたメディアは少数派だ。読売は法案可決を伝える記事では「大学無償化・高等教育無償化」という文言を用いていないが、今日の社説では「高等教育無償化」と表現している。
 また、テレビ各局は概ねこの件を単独で伝えてはいないものの、
など、子育て支援法の改正案成立を伝える記事の中で触れているケースがあった。


 一体何の事を言っているのかと言えば、文科省が今国会に提出していた大学等における修学の支援に関する法律案が、昨日・5/10の参院本会議で可決され成立した事についてだ。この法律がどんな内容なのかについては、BuzzFeed Japanの記事「「大学無償化」の対象は?上限はいくら?成績が悪いと打ち切り? 条件をまとめました。」が詳しく説明している。この法律が定めるのは、確かに大学などの高等教育を無償化することを目指した制度だが、無条件に大半の学生の学費が無償化されるのではなく「低所得世帯を対象に」という枕詞が付く。どんな人が無償化の対象になるのかをBuzzFeed Japanの記事から抜粋すると、
  • 家族4人で世帯年収270万円以下
  • 高校卒業後(若しくは高卒認定試験合格後)2年以内
などがその条件だ。上記の条件に合致しなくても、準ずる条件の場合は全額ではないが支援が受けられる場合もある。また入学時に支援(全額・一部)が決まっても、単位の取得状況や成績によって支援額が変わったり、支援が打ち切られる場合もある。更に支援額に関しては学校の種類ごとにその上限が決められている。

 まず何より、原則的に全ての学生の学費が無償化される制度ではないのにもかかわらず、「大学無償化」という看板を掲げるのは大袈裟過ぎる・ミスリードと言うより他にない。法律に規定された条件を見れば、大学の学費が全額無償化される者は一部の者のみであるのは明らかだ。それをまるで大半の学生の学費全額無償化が実現するかのように表現するのは、一体何への配慮なのだろうか。それとも日本のメディアはそれ程までに表現の正確さに無頓着ということなのだろうか。
 因みにBuzzFeed Japanの記事では、読売新聞の法案成立を伝える記事同様に
 低所得世帯を対象に、大学などの高等教育が無償化となる「大学等修学支援法」が成立しました。
と表現している。決して少なくない学生が支援の対象にならず、しかも支援を受けられる者も完全に学費が無償化されるとは限らず、学費の一部支援の場合も決して少なくないのに、つまり学生全体の何割かが例外的に学費が無償化されるだけの限定的な制度なのにもかかわらず、あたかも原則的に大学生の学費が「全額無償化」されるような表現をするのは明らかにおかしい。読売やBuzzFeed Japanが用いた「修学支援」、NHKや日テレが用いた「負担を軽くする、軽減する」が妥当な表現であって、「無償化」は法案の内容と乖離し過ぎた表現、というか個人的には詐欺的とすら思える。
 このような羊頭狗肉の看板は、月々の支払額以外に月々の支払分の合計額・34万6032円を大幅に超える、153万2000円が別に必要な「3年リース」プランにもかかわらず、「月々9612円」と謳って、あたかもその月払い額だけで「購入」可能なプランかのように宣伝する手法(1/14の投稿)と似たようなものだ。個人的には、この法案を提出したのは文科省、つまり政府与党なので、政府や与党の手柄を最大化したい、つまり「やってる感」を過剰に演出したい誰かの思惑が反映されているように思えてならない。


 昨日の投稿で書いた「飛翔体」や「容疑者」などの表現と同様に、法案の内容と乖離した「大学無償化」なんて表現を、既存メディア・大手メディアが軒並み用いるようでは、既存メディアの信頼性は更に下がるのではないだろうか。
 自分は昨日、ハフポストの「大津・園児死亡事故でのマスコミ批判。佐々木俊尚さんは「報道側も世間に晒される時代になったと認識を」」という見出しの、メディアの報道姿勢を今一度見つめ直した方がよいのではないか、という趣旨の記事に対して、
 大変頷ける記事内容だが、一方で、マスコミはバカだのクソだの、マスゴミだなどと罵ってる人も、そのクソだというメディアや記者と同レベルかそれ以下にしか思えない。冷静さを欠いている

>みんなに叩かれている物を一緒に叩くのが、気持ちいいからだと思います。炎上をすぐに忘れるのは、本質的に自分に関係ないものを叩いているからだと思います 
とコメントした。そんな罵詈雑言は決して批判ではなく単なる中傷でしかないし、引用とリンクをつけたように「いじめ」にも似たような行為でしかないと思っているが、そんな罵詈雑言や中傷を誘発させる不信感を、メディア自身も煽っている側面がないとは言えないとも思う。
 大津の事故の記者会見に関しては、全く何も問題点はなかったとは言い難いが、個人的にはメディアの姿勢が一方的におかしいとまでは思えない。しかし、低所得世帯の学生を対象に大学など高等教育の負担を軽くする為の法律の事を、「大学無償化法」なんて大手メディアが口を揃えて言っていたら、メディア全体への不信感が生まれ、若しくは更に強まり、(自分の目から見て)必要以上に、過剰にメディアを批判、批判とは到底言い難い中傷をする者が現れるのも、容認をするつもりは全くないが、必然的なことかもしれないとも思えてしまう。

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