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旭日旗は今も軍旗。軍旗は五輪に相応しいのか


 韓国国会・文化体育観光委員会が、旭日旗のオリンピック競技会場への持ち込み禁止措置を組織委へ求める決議を採択したことを受けて、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、
 旭日旗は日本国内で広く使用されており、旗の掲示そのものが政治的宣伝とはならないと考えており、持ち込み禁止品とすることは想定していない
という見解を示したそうだ(五輪、旭日旗の持ち込み禁止せず 韓国側の決議に組織委が方針 | 共同通信)。
 数日前には「東京パラメダルデザイン “旭日旗想起”と韓国団体 TBS NEWS」という報道もあった。パラリンピックのメダルには扇をモチーフにした放射線状のデザインが施されているのだが、流石にそれが旭日旗を連想させ不適当ということになると、例えば、北マケドニア(旧称マケドニア・Wikipedia)の国旗は当該メダル以上に旭日旗に近いデザインで、旭日旗を想起させる為不適切で、東京オリンピック/パラリンピックに持ち込むべきでないとか、マケドニアは国旗を変えろ、みたいな話にもなりかねず、メダルの件に関しては韓国側の過剰反応と言ってもよさそうだ。





 しかし、東京オリンピック組織委員会が示した「旭日旗は日本国内で広く使用されており、旗の掲示そのものが政治的宣伝とはならないと考えており、持ち込み禁止品とすることは想定していない」という見解は、適切とは絶対に言えない。何故なら、旭日旗は戦前の日本軍のシンボル且つ現在の自衛隊のシンボルでもあるからだ。


 確かに、旭日旗は日の出を模したデザインであり、日の出を模した同様のデザインは、例えば朝日新聞社の社旗や、アサヒビールの旧ラベル、大漁旗のデザインの一部など、戦前戦後を通して軍旗/自衛隊旗以外にもしばしば用いられてきた。東南/東アジア、特に中国や韓国などで旭日旗が嫌悪の対象になっているのは、戦前戦中に日本軍/日本当局が行った非人道的行為の影響だ。欧米でナチス党のシンボル/ナチスドイツの国旗として用いられたハーケンクロイツ、所謂右まんじが嫌悪されるのと似ている。




 右まんじも、ナチスがハーケンクロイツとしてシンボル化する以前から用いられてきた歴史もあるようだが、欧米、特にドイツなどでは、右まんじ=ハーケンクロイツとして強い嫌悪の対象となっている。紛らわしいということもあり、仏教徒の多い国などでは何の問題もなく用いられる左まんじ、所謂通常のまんじ/卍 も、殆ど用いられない文字/デザインになっている。
 ハーケンクロイツは極右勢力などが好んで用いることもあり、欧米以外でも概ね、ハーケンクロイツ/右まんじは軽率に用いるべきでないデザインという認識が広がっている。しかし、旭日旗が理由で放射線状のデザインが、右まんじ同様に扱われているかと言えば、確実にそうとは言えない。国や地域によって温度差はあるだろうが、右まんじ程タブー化されたデザインとは言えないのが実状だ。


 組織委員会が示した「広く使用されており」に関しては同意するものの、その主語が「旭日旗」になっているのは妥当とは言い難い。Wikipediaの旭日旗のページでは「旭日旗(きょくじつき)は、太陽および太陽光(旭光)を意匠化した旗」と説明されているが、現在、旭日旗と表現する場合は概ね旧日本軍旗/現自衛隊旗を指す。つまり、日本で今も広く利用されているのは、旭日旗ではなく、日の出を模したデザインとするのが現状に即していると言えるだろう。
 それは逆に言えば、国外から見た場合だけでなく、多くの日本人も、旭日旗=軍旗/自衛隊旗と認識していると言える。旧日本軍旗として旭日旗をオリンピック会場に持ち込むことには、明らかに政治的な意図があると言えるだろうし、戦前の日本軍の過ちを認めた上で成り立っている国際関係を維持する為にも、それは否定されるべき行為で、組織委員会等は積極的に否定すべきである。自衛隊旗として旭日旗を会場に持ち込むのも決して適当とは言えないだろう。何故なら、日本国内では一応自衛隊は軍隊ではないという建前が成り立ってはいるものの、国外から見れば自衛隊は世界で10本の指に入る規模の紛れもない軍隊で、旭日旗は明らかに軍旗だからだ。
 オリンピック憲章の根本原則にはこうある。
 オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある。
一般的にもオリンピックは平和の祭典と呼ばれている。平和の祭典にあからさまな軍旗、しかも否定されるべき戦前の日本軍の象徴でもある旗を持ちこみ、それを振って選手を、しかも開催国が応援することがどれだけ異様なことかを、オリンピック組織委員会は理解/想像できないようでかなり残念だ。残念というより恥ずかしい。

 例えば、ドイツ軍にも黒十字や鉄十字と呼ばれるシンボルが存在する(Wikipedia)、イギリス空軍にもラウンデルと呼ばれる国籍章がある(Wikipedia)が、それらの国民はそんな軍と密接な位置付けのシンボルを用いて選手を応援しているだろうか。
 確かにオリンピックは国別対抗戦で、自国の選手を応援することは自然だが、しかし、自国選手への応援が度を越し、他国や他国選手を卑下したり挑発することになれば、平和の祭典に相応しいとは言えない。軍を強く想起させるシンボル/旗などを用いることは、挑発行為に該当する恐れもある。しかも日本では、武道や野球などのスポーツを中心に、未だに、勝ってもガッツポーズをするなどして過剰に歓喜してはならない、何故ならそのような行為は相手を挑発することにもなりかねないから、のような認識がある。個人的にはそのような感覚はやや時代錯誤であると感じるものの、組織委員会や関係団体などが、そのような認識に苦言を呈さないのに、相手に対する挑発にもなりかねない軍旗を応援に用いる行為を厭わない姿勢を見せるのは、矛盾を孕んでいるようにも感じる。


 また、組織委員会は「旭日旗は日本国内で広く使用されており」と言っているが、昨今旭日旗を自衛隊以外で主に用いているのは、暴走族やヤンキー文化を好む者と差別的な主張を繰り広げる団体である。前者は別として、差別・偏見・嘘をまき散らす団体が旭日旗を好んで用いている状況があるのに「広く用いられているから使用を否定しない」とするのであれば、組織委員会は差別的な主張・偏見を肯定はしないが否定もしない、と認識される恐れがある。ハーケンクロイツが未だに強く嫌悪されるのには、前述のように「極右団体が好んで用いているから」という理由もある。
 個人的には、組織委員会等には旭日旗の持ち込みは認めない、という断固たる姿勢を示して欲しいと考えるが、「認めない」とまでは言えなくとも、少なくとも「好ましいとは言えない」という態度は最低限必要だ。

 2018年10/5の投稿でも書いたことだが、差別や偏見を振りまく団体が旭日旗を好んで用いる限り、どうやっても旭日旗の地位が向上することはない。自分も、旭日旗=絶対的な差別や非人道的行為の象徴、とは思わないが、それを認めて欲しいのであれば、国や自衛隊は、差別や偏見・嘘を撒き散らす団体に旭日旗が利用のされることに対して積極的に苦言を呈すべきだ。それをしない限り状況が変わることはないだろう。寧ろ日本人の間にも、旭日旗に対する嫌悪が徐々に広がっていくことになる
 現首相は「自衛隊の地位向上の為には憲法改正が必要」と言うが、自衛隊のシンボルである旭日旗を、差別や偏見・嘘を撒き散らす団体が用いていることには苦言を呈さない。結局のところ、彼が望んでいるのは「戦後初の憲法改正を実現した首相」という肩書と自己満足感であって、自衛隊の地位向上という話はその為の道具に過ぎないのではないだろうか。


 トップ画像は、Japan Self-Defense Force Flag JSDF.png - Wikipedia を使用した。

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