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風刺/ブラックユーモアと嘲笑の境界について考える


 よしもと所属のお笑い芸人・金属バットのネタが差別や偏見を助長する内容だと批判を浴びている「猿としたらエイズ」「黒人とかな」 吉本芸人のネタにHIV陽性者ら批判「差別を強化」 BuzzFeed Japan)。数日前に、同じくお笑い芸人のAマッソのネタが人種差別的だと指摘されたことについて書いたが(9/25の投稿)、その時既に金属バットの別のネタも、人種差別的な認識があるのでは?と話題に上っていた(「黒人が触ったもの座れるか!」吉本芸人のネタに批判 「Aマッソよりひどい」 BuzzFeed Japan)。





 BuzzFeed Japanの記事ではリンクが自粛されているようだが、これが批判の対象になっているネタだ。差別や偏見に当たるかどうかは一旦置いておくとして、誰がどう感じるのかはそれぞれの自由だが、個人的にはこのネタで笑える人の気が知れない。


 ブラックユーモアという概念がある。日本ではブラックジョークとも呼ばれ、Wikipediaでは
 ブラックジョーク(英: black joke)とは、倫理的に避けられるタブー(生死・差別・偏見・政治など)についての風刺的な描写や、ネガティブ・グロテスクな内容を含んだジョーク・コメディ・ユーモアを指す言葉である。
 英語圏では語源の「Black humor ブラック・ユーモア」を初め、「Black comedy ブラック・コメディ」「Dark comedy ダーク・コメディ」とも呼ばれるが、意味する所に大きな違いはない。日本語では直訳である「黒い笑い」で形容されることもある
と説明されている。日本語で単にブラックジョークと表現した場合、倫理的なタブーに付いての風刺という、ある意味高度なユーモアの技法だけでなく、皮肉を多分に用いた笑いを誘う技術などを指す場合もしばしばある。

 ブラックユーモア/風刺に関する事案として大きな波紋を呼んだのは、シャルリー エブド襲撃事件が記憶に新しい(シャルリー・エブド襲撃事件 - Wikipedia)。シャルリー エブドはフランスの新聞で、イスラム過激派によるテロを批判するのに同紙が用いたイスラム教の開祖・ムハンマドの風刺画が発端となり、一部のイスラム教徒らは嫌悪・批判の対象にしていた。2015年1月に男らが事務所に乱入し、風刺画家やコラムニストなど12人が殺害され、アラビア半島のアルカイダが「ムハンマドを侮辱したことへの復讐」として犯行声明を出した事件だ。
 次の画像は シャルリー・エブド ムハンマド - Google 検索 の結果である。


 この事件のことを考えると、金属バットのネタは、一応ツッコミの中に行き過ぎたボケに対する「やめ、お前!」というような表現も含まれており、一概に言語同断とは言えないようにも思う。所謂アングラネタとしては存在を否定すべきではないかもしれない。しかしそれでも、許容できるのは小箱でのライブのような環境での披露であって、不特定多数の目に触れる無料街頭イベントでの披露や、Youtubeへの投稿、民放で放送するのには適さないネタなのではないか。
 「不快になる人は見なければいい」という人もいるだろうが、その論理で行けば、Youtubeや民放がエロや喫煙、暴力に関する表現をある程度規制していることの説明がつかなくなる。個人的には、前述の金属バットのネタは言葉の暴力に該当する恐れが多分にあると感じる。


 ツッコミで「やめ、お前!」と言っているのだから、お笑いネタだが嘲笑ではなく、エイズや人種差別に対する問題提起の側面もある、と考える人もいるかもしれない。だが自分は、その「やめ、お前!」というツッコミだけで過激なボケの意義を肯定的に受け止めることができない。
 TBSの人気番組に水曜日のダウンタウンがある。同番組では、街頭インタビュー映像に、しばしばインタビュー対象の容姿・ハゲや歯抜けなどを、インタビューの本筋とは関係なく不要にクローズアップしたカットを混ぜ込む編集手法が見られる。その度に同番組のタイトルにもなっているお笑い芸人・ダウンタウンの2人が「わっるいなー」「やめぇ!」などとツッコミを入れるのだが、それでもそのような表現は何度も繰り返されてきた。
 例えば、1度か2度の悪ノリのようなことであれば、目くじらを立てる程でもないのかもしれない。しかしそんなことが頻繁にあると、そのようなVTR編集手法を、番組タイトルにもなっているダウンタウンの2人が本当に不適切だと思っているのなら、スタッフにきつく「2度とするな」と指摘して止めさせているだろう。しかしその様なVTRが度々流され、その度に2人が「わっるいなー」「やめぇ!」などとツッコミを入れているということは、ダウンタウンの2人は実際は悪いとも止めろとも思っていない、そのようなツッコミを入れることまでを1つのパッケージングとして笑いを誘う手法だと、積極的ではないにせよ認識しているということなのではないだろうか。そんなことを勘案すると、金属バットのネタも「やめ、お前!」というツッコミまで含めて笑いを誘う手法と認識しているとも考えられ、つまり言葉に反して「やめ、お前!」とは思っていないとも考えられるのではないか。
 フリートークと、予め用意されたネタや予定調和のやりとりでは話が大きく変わってくると考える。後者であればそこに悪意が含まれている恐れは前者よりも高いのではないだろうか。


 前述のように、個人的にはその手の手法のお笑いは、笑えないのでお笑いだとすら思わない。しかし、例えば「透析患者は殺せ」のように、誰かを明確に対象とした攻撃でもない限り、内輪でやっていることまで否定することもできない。但し、エロ表現についてある程度ゾーニングが必要であるのと同様に、言葉の暴力にもなり得る表現にもゾーニングは必要なのではないか。

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