ジャニーズのアイドルグループ出身の芸能人・田口 淳之佑さんと、既に芸能活動をしていない元女優の小嶺 麗奈さんが、乾燥大麻を所持していた疑いで5/22に逮捕されると、メディア各社はこぞってそれを取り上げ、特にテレビ各局はワイドショーだけでなくニュース番組も、数日間その件について大々的に取り上げた。それについては5/24の投稿でも書いた。
その数日後の5/28に、今度は文科省の官僚が覚醒剤と大麻所持の疑いで逮捕された(ハフポスト/朝日新聞)。この件も当然メディア各社は報じるには報じたが、明らかに前述の田口さん小嶺さんの事案よりも報道の量は少なく、特にテレビ各局が割いた時間は比べものにならないくらいに短かった。芸能人の大麻所持と、官僚の覚醒剤/大麻所持を比べたらどちらが深刻だろうか。若年層への影響という意味では芸能人のそれの方があるのかもしれないが、国政への影響を考えれば明らかに官僚のそれの方が事の重大さは上だろう。3/23の投稿や4/25の投稿で触れた、ピエール瀧さんのコカイン所持事件に関する報道の量と、その後同様に覚醒剤所持で逮捕された経産官僚の件(朝日新聞)を比べても明らかだが、明らかに前者の報道量の方が多かった。
このような直近の報道の傾向を見ていると、メディア、特にテレビ各局の報道は著しくバランス感覚を欠いているようにも思えるし、メディアが大衆迎合的になっている、つまり一部の視聴者がそんな報道を望んでいるからそうなっているようにも思える。ただ、もし一部の視聴者がそんな報道を望んでいるのだとしても、報道は人気第一で行われるべき商売ではないので、その大衆迎合的な傾向は容認できるようなものではない。
2つの芸能人の薬物事犯と2つの官僚の薬物事犯の内容を比べて、最も程度が深刻だと思えるのは経産官僚の事案だ。前述の朝日新聞の記事等が報じているように、彼の職場からも覚醒剤を使用する為の注射器が見つかっているし、本人も「職場のトイレや会議室で覚醒剤を使用した」と言っているそうだ。
覚醒剤にしろ何にしろ、注射器で直接血管に注入して使用するのは、火であぶるなどの方法で気化させて吸引したり、そのまま舐めたり吸ったりする粘膜からの摂取ではその効果が物足りなくなってしまった者が手を出す摂取方法だ。つまり注射器を使用しているという時点で常習性が窺えるし、しかもそれを職場で行っていたのなら、相応の依存状態だったのだろう。大麻事犯や薬物事犯が話題になると、一部のアナウンサーやコメンテーターらはそれだけで依存症との関連に言及するが、大麻事犯や薬物事犯全員が依存症というわけではない。それは酒を飲む人全てがアルコール依存症ではないのと同じ事なのだが、違法であるものに手を出す=依存症かのような認識でいる人が決して少なくない。しかし前述のように、感染症になるリスクを伴うのに、注射器を使用して酩酊効果を高めていれば依存症の恐れは高いと言えそうだし、仕事中でも使用する節度のない状態であれば更にその恐れは強いと言えるだろう。仕事中に隠れて酒を飲んでしまう人や、仕事の直前まで酒を飲み、酔ったまま仕事をするような節度を欠く状態になっている人は、アルコール依存症の恐れがあるのと同じことだ。
このように、芸能人と官僚ならば官僚の方が深刻さは上で、依存症の恐れから考えても経産官僚の件が最も深刻度が高いと容易に推測できるにもかかわらず、これら4件の中でメディア各局が最も時間を割いたのはピエール瀧さんの件だし、その次も明らかに田口さん小嶺さんの件だ。これではメディア・特にテレビ各局の報道はバランス感覚に欠けていると断言してもよいのではないだろうか。
5/29の投稿でも触れた川崎での児童ら殺傷事件に関しても、メディア・特にテレビ報道がバランス感覚を失っている事が見てとれる。5/29の投稿でも書いたように、コメンテーターらが「死にたきゃ勝手に死ね」のようなことを平気で言うことや、それにまつわる懸念について番組内でアナウンサーや司会者、他のコメンテーターらが示さないことなどもそう思える要素の一つなのだが、衝撃的だったのはフジテレビや日本テレビなどが
部屋にテレビとゲーム機 岩崎容疑者の自宅などと報じたことだ。 BuzzFeed Japanの記事に書かれているように、
- テレビやゲーム機があるのは普通
- うちにだってある
- つまりテレビが危険ってことですね
- まさか犯人の家には冷蔵庫もあったのでは?
- 冷蔵庫と電子レンジがあることも判明した。寝るときは枕を使っていたようだ、とかも全部報道すればいい
主に槍玉に上がったのはこの「部屋にテレビとゲーム機 岩崎容疑者の自宅」という件だったが、NHKやTBSも
殺人事件の事例を集めた古い雑誌2冊が押収されていたと報じている。
両局の報道とも、確かに「大量殺人に関する本に影響されて事件を起こした」とは言っていないものの、警察の見解をそのまま伝えるだけで、それらを関連付けようという意図が透けて見える。
例えば痴漢事案でも、容疑者の自宅が家宅捜索されて痴漢モノのアダルトビデオが押収されたとか、性犯罪事案でもレイプモノのアダルトビデオが押収されたなどと報道されることがしばしばあるが、関連性も定かでない内からあたかも関連性があるかのように報じれば、本来関係のない各所への影響が起きるとは考えないのだろうか。自分は痴漢したこはないが痴漢モノのアダルト作品を見たことがあるし、レイプモノも同様だ。戦争肯定なんて断じてしないがガンダムは好きだし、戦車などの兵器デザインに相応の興味があり、模型を作ったりもする。前述のような関連付けが行われると、戦争や犯罪のドキュメント番組を制作しているテレビ各局は、犯罪者を育む恐れがある組織と言われかねないのではないか。
前述のBuzzFeed Japanの記事でも指摘されているように、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件がアニメオタクだったことが大々的に、しかも陰気さや不気味さを強調して報じられ、特にその後10年間、つまり主に90年代にアニメやゲームを趣味とする者が見下される状況に繋がったこと等を省みないから、今でも興味本位としか思えないそんな報道が行われているのだろう。
勿論、容疑者が「殺傷事件を計画的に起こしたのか、突発的な衝動で起こしたのか」を調べる上では、容疑者の趣向や興味を調べる必要はあるだろうし、それは何らかの方法で市民に伝えられるべきことなのかもしれないが、その報道がレッテル貼りを助長したり、偏見を煽ったりするようなことがあってはならず、相応の配慮が必要だということは明らかで、これまでに指摘した報道にはそのような配慮が欠けていると言えるだろう。
更に、この事件の一連の報道について、 一般社団法人ひきこもりUX会議が、
ひきこもっていたことと殺傷事件を起こしたことを憶測や先入観で関連付ける報道がなされていることに強い危惧を感じていますという声明を発表している(ハフポスト)。この話も前述の話と同様にレッテル貼り・偏見を助長しかねない話でもあるし、「死にたきゃ勝手に死ね」のようなコメントは、犯罪に至ってしまうようなタイプには響かず、現在深刻視されている自殺予備軍に刺さってしまい、自殺を助長してしまう恐れがあるのと似たような話でもある。
川崎の事件は確かに衝撃的だし、注目度が高いことは理解できるのだが、メディア各社は大衆迎合的に、
むやみに続報を出し続けるよりも、「一回休み」の後により深い詳報を世に問う方が、よほど意義があるのではないか(BuzzFeed Japan)。
しかも現在は参院選の直前であるにもかかわらず、与党が何故か2ヶ月以上も予算委員会の開催を拒み続けているような状況なのに、そのことに触れるメディアはあまりにも少ない。昨年のゴールデンウイーク明けに、森友学園、加計学園、防衛省日報、福田財務事務次官セクハラ等の各種問題への政府与党の対応の悪さを理由に野党側が審議拒否をした際は、一部の政府与党積極支持者らが「野党は○○連休」と揶揄したことを、メディア・テレビ各局も取り上げていたのにだ。つまり、芸能人の薬物事犯や川崎の事件以外にも取り上げるべき事案は山程あるにもかかわらず、何故か官僚の薬物事犯や政府与党の国会運営についてはあまり取り上げないのは何故か。しかも軒並み各局が足並みを揃えて同じ傾向であるのは何故か。
そんな事を勘案すれば、
メディア・特にテレビ各局の報道はバランス感覚を欠いている
と強く感じられるのはそれ程不自然なことではないだろう。