スキップしてメイン コンテンツに移動
 

男系男子による皇位継承に拘ることで生じるいくつもの矛盾


 自民党の保守派議員らは6/12に「日本の尊厳を護る会」を結成した。時事通信「旧宮家の皇籍復帰提言へ=自民保守派」によると、彼らは男系男子による皇位継承を維持すべきとの立場だそうで、旧宮家の皇籍復帰などを検討し、年内にも政府への提言をまとめる考えなのだそう。当該記事には「「Y染色体」に触れ男系継承評価=自民・古屋氏」という6/11の記事へのリンク、そしてその記事には「旧皇族の皇籍復帰を=衛藤首相補佐官」という5/21の記事へのリンクも含まれている。
 3つの記事を読んでみても、彼らが何故頑なに「男系男子による皇位継承を維持すべき」と主張しているのかがよく分からない。強いて言えば、

 男系男子による皇位継承は日本の伝統だから守るべき


と言っているようにしか見えない。
 自分はこのブログやSNS等で再三再四同じ話をしてきたし、4/23の投稿「思考停止に陥る首相と政府」の結びでも明確にそれを書いたが、改めてもう一度書いておく。
 伝統は伝統だから守らなければならないのではなく、守る必要性があるしきたりだからこそ伝統となった筈だ。合理性を欠いた伝統は「思考停止」を生じさせるだけなので必要ない
古谷氏は男性に特有の「Y染色体」云々という話を、あたかも合理性のある話かのように語っているが、彼が言っているのはつまり「皇位継承で重要なのは血の継承で、純粋に血を継承できるのは男性に限られている」のような趣旨の話だ。彼は「男女差別という問題ではなく、あくまでも染色体の科学的根拠がベースだ」などと言っているが、ハッキリ言って男尊女卑を正当化しようとする為に持ち出した話としか思えないし、染色体の話は科学的であっても、Y染色体を維持していくことが重要だ、という話は決して科学的ではなく、寧ろ宗教的な話だ。


 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでも、皇室を今後も維持するのにはどんな方策が必要かについて、この日のコメンテーターだった倉持 麟太郎さんが取り上げていた。このパートの冒頭では、前述の自民党保守派の姿勢も含め、現政府や各党の皇位の安定的な継承に対する立場をまず紹介していた。
 それを踏まえて倉持さんはまず、そもそも現在の皇室には皇太子がおらず、しかも男系男子に相当する者も少ないことに触れた。


 次に「皇位は皇統に属する男系男子が継承する」という皇室典範の規定を紹介し、皇位継承について憲法には「世襲」ということが明記されているだけで、男系男子という規定はあくまで法律の一種である皇室典範で定められているだけであることを説明した。


 皇位継承に関する問題について国民民主党などが、過去に女性天皇(一代に限り認められた女性の天皇)が存在していること踏まえて、「女系天皇(女性皇族の子孫が天皇になること)は認められないが女性天皇は認めるべき」という主張をしている(日経新聞「立民が女系天皇を容認、国民民主は女性天皇案」)という話を前提に、女性天皇だけを認めたところで、男系男子が圧倒的に少ない現状の解決策にはならず、女系天皇、更には女性宮家も認める必要がある、つまり皇室典範の12条「皇族女子は、天皇及ぶ皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」という規定の大幅な見直しが必要だと主張した。
 因みに倉持さんの主張は、立民や共産の主張に近い(時事通信「女性・女系天皇容認を=皇位継承で論点整理-立憲」/ 東京新聞「志位氏、女系天皇に賛成 「象徴」男性限定は不合理」)。


 倉持氏は更に、自民党保守派らが主張する「旧宮家の皇籍復帰」について、
  • 結局男系男子が生まれず将来的に、現在と同じ状況に陥る恐れを完全に回避できない
  • 70年前に皇籍を離れた旧宮家への敬意と理解が国民から得られるか定かでなく、得られなければ皇室の権威を低下させることにもなりかねない
  • 現状、皇籍復帰に前向きな当事者が殆どいない
などの問題点を指摘し、安定的な皇位継承を実現するには「女系天皇・女性宮家を認めるしかない」と結論付けた。
 一方で、一部に存在する「天皇や皇室自体、つまりそもそも天皇制が必要ない」という主張に対しては、憲法7条に「天皇の国事行為」が規定されており、現憲法下では、天皇がいなくなれば国会の召集他様々なことが滞ることになるので、つまり天皇制を廃するには憲法改正が不可欠となるので、そのハードルは決して低くないと説明し、現状を打開する問題解決方法として、法(皇室典範)の改定だけで実現できる、女系天皇等を容認する案の方がより現実味があることを示した。


 また、現天皇・皇室が如何に今の立場を築いてきたかと言えば、それは皇族、特に前天皇・現在の上皇が被災地を積極的に訪問したり、戦跡を回り戦没者を追悼する姿勢を示してきたからであって、それを考えれば天皇・皇室は、日本人の多くによって一定の敬意を持って認められていると指摘し、天皇制自体の廃止は多数の支持を得られないだろうと主張した。
 更に、彼ら天皇・皇族が一定に一定の敬意が払われている理由、言い換えれば天皇や皇族の権威というのは、「男系男子による皇位継承を貫いているからあるのではなく、あくまで彼らが常日頃から積極的に国民へ寄り添う姿勢を示してきたから」ではないのかと主張し、安定的な皇位継承を実現するには「女系天皇・女性宮家を認めるしかない」という彼の主張を別の面からも裏付けた。


 これについて、番組中に表示されていた視聴者ツイートの中には次のようなものがあった。






 6/8の投稿「松本人志「不良品」発言に関するあれこれ」でも触れたが、モーニングCROSSの司会者・堀 潤さんは、しばしば「議論をしましょう」「議論を続けましょう」というセリフを口にして、出演者のみならず視聴者にも議論を呼びかける。最早「議論」は彼の口癖と言ってもいいレベルだ。
 番組内で表示されていた視聴者ツイートの中には、前述のような男系男子重視の見解だけでなく、
のような、女系天皇・女性宮家の容認に肯定的な内容のツイートも多数あった。というか寧ろその種のツイートの方が多かったのかもしれない。そんな意味では、賛否両方の意見が番組ハッシュタグ付で寄せられ、それを番組で紹介したのだから、広義の議論にはなっていたのかもしれないが、何の根拠も示さずに「女系はダメ」なんて言っているだけのツイートを紹介して、それは果たして議論と言えるのだろうか。

 番組が取り上げたツイートの中には、「母系天皇になった自体で変わるのが王朝が変わるからダメ」と、根拠を示しているかのように見えるツイートも確かにある。しかし、この種のツイートが孕む不合理性に、番組内で相変わらず誰も触れないのはとても残念だ。
 彼は、というか彼に限らず「男系男子を堅持すべき」と言っている人達は概ね同じく「女系を認めると王朝が変わる」かのような事を言っているが、「女系を認めると王朝が変わる」かのような主張をする者は、イギリス王室の事をどのように考えているのか。現在のチャールズ皇太子は現在のイギリス国王・エリザベス2世の子であり、紛れもなく女系男子である。そのチャールズ皇太子は現在英国王室の王位継承順位第1位の座にある。彼はほぼ間違いなく将来英国王になるだろう。
 彼らはチャールズ皇太子が英国王になったら、英国の王朝は従来と変わったので尊敬に値しないと主張するのだろうか
そうでないと彼らの主張には整合性がなくなってしまうが、そんな主張をするとは到底思えない。テレビ番組の一視聴者ならまだしも、現役の国会議員の一部も同じ様な主張をしているのはかなり危機的な状況に思える。

 イギリス王室は男系男子を維持していないが、間違いなく国際的に一定の尊敬を得ていると言える。日本の皇室が男系男子を維持している点で国際的に評価されていると言える根拠は一体どこにあるのだろうか。馬鹿馬鹿しい話と言う以外に言葉が見当たらない。冒頭でも示したように、伝統は伝統だから守らなければならないのではなく、守る必要性があるしきたりだからこそ伝統になるであり、続けることだけが目的化した伝統は、昨今問題視されている所謂ブラック校則と何も変わらない。
 前段で紹介したツイートが言っている通り、

 現政府は女性が輝く社会を謳ってるのに、女性天皇・女系天皇に反対するのはおかしい


この話からも、そして
などでこれまで何度も指摘してきたように、現政権・与党の掲げる「女性活躍推進」「すべての女性が輝く社会の実現」などが、如何に羊頭狗肉か、単なる美辞麗句に過ぎないかは明らかなのではないか。

 「男系男子による皇位継承を維持すべき」という 自民党保守派=何が何でも男尊女卑文化を維持したい人々


としか思えない。勿論その支持者も、それを容認する者も同様である。






追記:
 ハフポストは6/18に「『アラジン』のジャスミンに感じた、ディズニープリンセスの“真新しさ”と“既視感”。実写版とアニメ版を見比べ感じたこと」という記事を掲載した。記事では、1992年にアニメ版が公開されたディズニー映画「アラジン」が、28年の時を経て実写映画化されるのに際して、アニメ版ではジャスミンが幸せにしてくれる王子様を待っている存在、つまり夫を国王として迎えるスタンスだったのに対して、実写版では私は王女なのだから私が国王になりたいというスタンスに変化している事を指摘している。
 自分はまだ当該映画を見ていないので、果たしてこの記事を書いたライターと同じ印象を映画から受けるかどうかは分からないが、このライターの言っていることが余りに的外れでもない限り、未だに「皇位は皇統に属する男系男子が継承する」という皇室典範の規定が存在し、ジェンダーギャップも110位と、男尊女卑傾向が改善しない国への痛烈な皮肉なのだろう、と感じられた。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。