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キノコ雲のロゴマークと旭日旗



 というツイートがタイムラインに流れてきた。この動画は十中八九このツイートをした人が作成したものではないだろう。添えられている字幕も別の人が付けたと推測できる。
 この手のツイートを見てまず感じるのは、他人が作った動画を拝借するなら最低でも出典を明記すべき、可能ならリンクをつけるべき、ということだ。著作権的に白とか黒とかツイッター上ではこれはOKかどうかとか、そのような話は別として、このような別の人が作成した動画、字幕等を付けた動画や、テレビのスクリーンショット、新聞や雑誌等の一部・または全部を撮影したものを用いてそれを紹介する場合に、誰が作成した動画なのか、どんな番組から切り出したのかも書かずに、それを拝借してツイートした者が「バズった」などと、はしゃいでいるようなリプライをしていると、とても残念な気分になる。引用の要件を満たすには最低限出典の明記が必要だ。
 そのようなツイートを引用するのもどうかとは思ったのだが、このツイートに添えられている動画の内容は、そんな残念な面を度外視すれば、確かに多くの人に見てもらいたい内容だ。「痴漢されたのはミニスカートを履いていたから」とか、「レースの下着を着けていたら性交渉の合意と取られてもしかたない」などの、性犯罪について、被害者の服装等に問題があったなどとする話が如何に馬鹿げているかを、強盗に遭ったという設定の男性に対して、女性の捜査官が「金持ちと言わんばかりの恰好をしていたのだから、あなたも酒を飲んでいたのだから、あなたにも落ち度がある」と告げる描写で表現している。


 こんな風に立場を入れ替えて考えれば、如何にその主張・論法に不備があるかが見えてくることがしばしばある。勿論、反論の為に挙げられた例が常に適切で、妥当性に欠けている場合など一切ないとは言えないが、逆に合理的な根拠も示さずに「その例は妥当とは言えない」とされることも良くある。元の主張をした側が「自分の主張の不備を認めたくない」と考えるのはある意味で当然のことなのだが、あまりにも思い込みが激しかったり、認めたくないが高じると「合理性のない話を強引に推す」という態度に出ることも多い。例えば6/24の投稿「室内から猫を出さないのは「猫のため」ではなく「人間のため」」で挙げたいくつかの話はその典型的な例だ。


 6/13にNHKが、原爆キノコ雲をモチーフにしたワシントン州の高校のロゴに疑問をもった日本人留学生の行動に対して大きな反響があった という話を取り上げて話題になっている(原爆キノコ雲のロゴに疑問 日本人留学生の行動に反響 米西部)。


 前述の「反響があった」は現地、つまり米国内での反響のことだが、この件に関する日本での報道への反響も大きかったようで、NHKは更に詳しく紹介する記事「WEB特集 私がいるのは、あの日が曇りだったから | NHKニュース」も公開している。
 自分はこの件に関して、世界で唯一原子爆弾を落とされた国の国民として、原爆による被害の悲惨さを少なからず学校で習っていれば、キノコ雲のロゴに違和感を覚えるのはごく自然なことだと思うのだが、原爆を用いなければ太平洋戦争はもっと長引いていたかもしれず、米兵だけでなく日本国民の犠牲も最小限に抑える為の必要悪だった、という認識が少なからずあるアメリカと日本では、キノコ雲に対するイメージも相応に異なるんだろうとも思えた。日本人が違和感を主張するのも何もおかしくはないが、一方で、アメリカでキノコ雲が今日までロゴマークとして、どこか肯定的に用いられてきたことが絶対的におかしいとか、配慮に欠けているとも思えない。


 キノコ雲のロゴマークの賛否は果たしてどちらに理があるか、を考えていると、日本人にとってのキノコ雲のロゴマークは、ユダヤ人にとっての鍵十字のようなものだと思えてきた。しかしその考えを少し吟味してみて、厳密に言えば、キノコ雲のロゴマークはナチスの鍵十字程、世界的に共通した負の象徴とまでは言えないのが現状で、鍵十字というよりも、中国人や韓国/朝鮮人にとっての旭日旗に近い存在 と言った方がより実状に近いかもしれないと感じた。
 もしかしたらそれ以前から旭日旗に対する嫌悪感はあったのかもしれないが、一部の中国や韓国人によって、旭日旗に対して明確な拒否反応が示されたのは日韓ワールドカップの前後からだと思う。もしかしたらきっかけはワールドカップではなくインターネットの普及によって、お互いの国の主張が見えやすくなったからかもしれない。きっかけはどうであれ、旭日旗が軍旗だったことを理由に戦前日本の象徴として嫌悪する風潮が明確化したのは、日本の敗戦からおよそ50年以上経ってからで、以前からキノコ雲のロゴマークに対する違和感もしばしば示されてきたが、戦後約70年経った今日、今まで以上にこの件が日本で盛り上がりを見せているという点も、中国/韓国から示される旭日旗への違和感との類似点だ。

 自分はこれまでに
など、中国や韓国等によって旭日旗に対する拒否反応が示された件が話題になった際に、このブログの投稿で触れてきた。これまでの自分の立場は、
 戦前の日本による仕打ちを考えれば、中国人や韓国/朝鮮人の一部が旭日旗に対する嫌悪感を抱くのは理解できるが、旭日旗のデザインは、日本軍が用いる以前からある太陽のモチーフであり、その使用は必ずしも軍国主義賛美、差別を意図しているとは言えない
だった。だから自分は、今回話題になったキノコ雲のロゴマークへ日本人留学生が違和感を示すのはある意味では自然なことだが、「使用すべきでない」とまで言えるかどうかと言えば、「使用すべきでない」とまでは言えないという立場である。もし「キノコ雲のロゴマークは原爆の賛美を強く想起させるので使うな」と日本人が言うのであれば、中国人や韓国/朝鮮人の「旭日旗は戦前日本の抑圧的・差別的な態度、軍国主義賛美を強く想起させるので使うな」という、旭日旗に対する嫌悪感を受け入れ、日本も自衛隊での使用を控えなければならなくなるだろうし、キノコ雲のロゴマークに注文をつける前にまず、自衛隊の旭日旗使用取り止めを主張すべき、ということにもなりそうだ。同じ様な話は、2018年11/11の投稿「BTS・原爆シャツ問題に感じる事、批判する側の矛盾」でも書いた。


 この話に関しても、冒頭で取り上げた件同様に、恐らく一部からは「原爆と旭日旗のケースを一緒にするのはおかしい」「旭日旗は国際的に認められた自衛隊旗・自衛艦旗だ」という、その例はおかしい・妥当とは言えないという反論がありそうだが、日本が戦前/戦中に満州や朝鮮半島で現地住民を差別的/抑圧的に扱ったことは紛れもない事実だし、たとえ世界的に旭日旗が日本の自衛隊/自衛艦旗として認めらているのだとしても、戦前それが日本軍の軍旗/軍艦旗だったことも確たる事実である。日本軍が市民を抑圧したのは満州や朝鮮に限らず東南アジアなどでも同様で、「そんな事実はない」というのは歴史を直視していない者の戯言でしかない。

 原爆のキノコ雲のロゴマークが話題になっている今こそ、日本人は旭日旗の取り扱いについても議論を深めるべきではないだろうか。

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