11月の終わりになると餅のCMを見かけるようになる。自分は餅を積極的に食べないので買うことはないが、スーパーマーケットでも目立つところに切り餅が置かれるようになり、それによっても冬の訪れを感じる。売り場でよく見かける餅は、佐藤食品や越後製菓の商品が多い。あまり餅に興味のない自分が見落としており、よく放送されているCMの所為でそう感じるだけかもしれないが、その二つは自分にとって「餅屋」の代名詞だ。
「餅は餅屋」という慣用表現がある。何事もその道の専門家にまかせるのが一番、を意味する。似た表現に「蛇の道は蛇」もある。これも、その道の専門家がその分野のことを一番よく知っている、のような意味だが、元々は「専門家」というニュアンスは薄く、「同類」のことは同類が一番よく分かる、のようなニュアンスだ。
昨日・12/4に掲載された「「ある冬の日に人生が変わった」性暴力への沈黙を破ったアフガニスタンの女性警察官 | ハフポスト」を読んで、まさしく「餅は餅屋、蛇の道は蛇」だな、と強く感じた。見出しに続くキャッチにもあるように、
女性が暴力に沈黙を強いられるアフガニスタン社会で、「暴力の被害者を支える存在」として女性警察官に期待が高まっているという内容で、女性の困りごとは女性が一番よく分かる、という点で女性警察官の存在が重要であることが書かれた記事だ。
3/24の投稿でも触れたが、日本の男女格差指数は世界110位でG7中最下位だ。国会議員の女性割合はたった10.2%しかない(女性議員の割合 日本165位 先進国で最低水準 | 注目記事 | NHK政治マガジン)。その改善を目指して、2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」(候補者男女均等法)」が成立したが、与党・自公は、2019年7月参院選における女性候補者擁立の数値目標設定を見送った(自公、女性擁立の数値目標見送り 参院選、立民は4割で国民3割 | 共同通信)。
「餅は餅屋、蛇の道は蛇、女性の困りごとは女性が一番よく知っている」 ことは明らかなのに、女性議員が10%程度しかいなければ女性に関する諸問題の改善は進まないだろう。にも関わらず、昨年成立した均等法を、成立後初の国政選挙から与党が無視しているのだ。しかも与党総裁でもある首相は「女性活躍推進」なるスローガンを掲げている。まさに羊頭狗肉としか言いようがない(3/10の投稿)。
女性の社会進出や男女格差解消の重要性をメディアもしばしば報じるが、そのメディア各社の実状はどうだろうか。4K衛星放送が始まって12/1で1周年を迎え、それに先駆けて記念セレモニーが行われた。「4K衛星放送開始から1周年 TBS NEWS」はそれを伝えているのだが、
登壇者は、推進キャラクターの深田 恭子さんを除いて全員男性である。
ハフポストも11/19に「民放テレビ局、番組制作のトップに女性ゼロの実態。女性比率調査(民放労連女性協議会)」という記事を掲載している。
世論を喚起できる立場の政府やメディアの現状がこれでは、日本の男女格差指数が110位というのも当然だろう。
「餅は餅屋」と言えば、ハフポストは同じく昨日・12/4に「急増する訪日・在留外国人「医療」に「外国人看護師」活用すべし | ハフポスト」という記事も掲載しており、女性の困りごとは女性が一番よく分かるのと同様に、外国人の困りごとも外国人が一番よく分かることを感じさせる内容だった。
また、12/3掲載の「納得できる「死」などあるのか | ハフポスト」も「餅は餅屋」を感じさせる内容だった。これは「「患者にも家族にも配慮がない」「誤解を招く」 厚労省の「人生会議」PRポスターに患者ら猛反発 BuzzFeed Japan」によって賛否両論が各所で示されている、厚生労働省のACP:アドバイス ケア プランニング、人生会議のPRポスターに関する記事だ。因みに厚労省はこのポスターを既に取下げ済みだ。
BuzzFeed Japanの記事を見て自分は、がん患者団体が「「がん=死」を連想させるようなデザインだけでもナンセンス」と抗議していることについては、ポスターにはどこにも「がん」という表現はなく、言い掛かり感が強いと感じたが、しかし一方で、息子が深刻な状況にも関わらず、病室でヘラヘラしている父親がどれ程いるかを考えると、ポスターに描かれた境遇に近い状況に置かれた人達が不快感を覚えるのも当然のようにも感じられた。
ハフポストの記事を読んで感じたのは、勿論様々なケースがあることは理解するが、ポスターに描かれているのは、実際の現場の状況と大きく乖離した状況だということだった。それはハフポストの記事だけでなく、BuzzFeed Japanの関連記事「さよならを言う前に 父の看取りの経験から」「アドバンス・ケア・プラニング(人生会議)は、本当に人を幸せにするのか?」などからもそう感じる。
「人生会議ポスター中止 契約価格「高い」|日テレNEWS24」によると、同ポスターは厚労省が4070万円の契約価格で吉本興業に制作を委託したものだそうだ。
吉本が作成したのなら、あくまで「作り話のネタ」と受け止めるべきなのかもしれない。しかし、そのネタが現実と大きく乖離していたら、厚労省のキャンペーンに相応しいとは言えないのではないか。但し「大きく注目されACP/人生会議が話題になり、議論も喚起した」という点では、このキャンペーンは成功と言えるかもしれない。勿論もっと良い方法もあっただろうが。
吉本はPR広告に関しては餅屋かもしれないが、医療分野に関しては餅屋ではない。自分には、医療分野の餅屋ではない吉本主導で企画されたポスターだから的外れなものが出来上がったように感じられる。発注した厚労省の予算は税金が原資だ。餅屋以外に餅を発注しないで欲しい。
7月の参院選では、れいわ新選組から立候補した2人の障害を持つ候補が当選した(7/31の投稿)。障害者が議員になることは、やはり「餅は餅屋」を感じさせる出来事だった。女性/外国人などと同様に障害者のことはやはり障害者が一番よく分かるだろう。障害者の議員がいれば、彼らは確実に障害者目線の声を健常者よりも国会での議論に反映させてくれるはずだ。
12/2の参院本会議の中で、12/3の投稿でも大きく取り上げた「桜を見る会」に関する答弁の中で、安倍首相は「桜を見る会」の招待者名簿の裁断日が、シュレッダーの予約日から2週間以上も遅れた理由について、
本年の招待者名簿についても、廃棄を行うための大型シュレッダーの予約を4月22日に行い、その際、シュレッダーの空き状況や担当である障害者雇用の短時間勤務職員の勤務時間等との調整を行った結果、使用予定日が5月9日となったことから、その予定通り廃棄したものであり、野党議員からの資料要求とは全く無関係であるとの報告を受けておりますと説明した。首相や官房長官、そして内閣府や消費者庁などは、桜を見る会の参加者・招待者や名簿について、しばしば個人情報保護を理由に開示出来ないと説明しているのに、なぜわざわざ職員が障害者だという、問題の本質とは関係性の薄い個人情報を強調したのか、障害者だったから仕事が遅れた、と障害者の所為にしているのではないか、という批判が上がっている。
この首相の発言に対して、7月の参院選で当選したALS:筋萎縮性側索硬化症を患う重度障害者の舩後 靖彦議員は、
担当職員の属性は、資料破棄の根本問題とは関係ない。障害者雇用だったことが破棄に時間がかかった理由のように語られるのは不適切だと指摘した(東京新聞:桜を見る会 車いすの横沢氏、舩後氏反発 首相「名簿廃棄に障害者職員関与」:政治(TOKYO Web))。議員でない障害者の発言は軽いというわけではないが、障害者が国会議員としてこのような批判を行うことは「餅は餅屋」であり、障害者に関する餅屋、国会議員は政治の餅屋という意味でとても重要だ。
この件に関しては日本国内だけでなく、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、USニュースなどアメリカの主要メディアでも取り上げられている。首相とは行政の長であり、つまり行政機関の総責任者だ。つまり彼は責任を負うことの餅屋だ。
責任の取り方には様々な方法があるが、これまで現政権内では複数の改竄・捏造・隠蔽が起きているし、この桜を見る会の問題に関してだけでも、首相・官房長官・内閣府官僚らの嘘が既に複数発覚している。彼が責任を負うことの餅屋ならば、まず「参加者選定には関与してなかった」という自分がついた嘘について、そして官房長官を始めとした自分の部下がついた嘘について、適切な責任の取り方(内閣総辞職)をするべきだし、彼が責任をとることの餅屋でないなら、責任者としての資質が不十分ということなのでやはり内閣総辞職するのが妥当だろう。