職場で女性にハイヒールやスカートの着用が強制されることへの疑問を主張する人に対して、「男だってネクタイやスーツを強制されるのに、何を我儘言ってるんだ!」とか、「だったら男に対するネクタイやスーツの強制にも疑問を唱えろ!」のような反論をする人がいる。端的に言ってひねくれている。何故なら、ハイヒールやスカートの強制に異論を唱える人は誰も「ネクタイやスーツが男に強制されるのは当然」とは言っていないからだ。
但し、「○○には触れるのに、○○に触れないのはおかしい」という話が全て素っ頓狂でひねくれた話、というわけではない。例えば、テレビ各局が外国の反政府デモについては報じるのに、国内の反政府デモについては報じないのであれば、それは優先順位・バランスがおかしい恐れがある。そんな場合には「○○には触れるのに、○○に触れないのはおかしい」という批判もあって然るべきで、その批判をおかしいと言う方が短絡的でひねくれている、と言える場合もある。勿論、国外と国内の反政府デモの規模や主張の内容によっては、国内の反政府デモを報じなくても妥当なケースもあるだろうが、そうとは思えない事案について1/15の投稿で書いた。
冒頭で書いたような、妥当性の低い「○○には触れるのに、○○に触れないのはおかしい」という主張・反論がSNSに溢れている。特に目に付くのは政権擁護でこの手の論法を用いている人だ。あまり使いたくない分類ではあるが、所謂ネトウヨと呼ばれるような人達に、この種の主張をする人が多いように感じている。
昨日、世耕 前経産大臣がこんな風にツイートした。
今、参議院内の幹事長室で予算委員会を見ています。野党の質問が始まって40分経過しましたが、— 世耕弘成 Hiroshige SEKO (@SekoHiroshige) January 29, 2020
先刻武漢からの飛行機が到着し、目の前に総理や厚労大臣等、新型コロナウイルス感染症に対応している責任者が列席している。
このシチュエーションで感染症について質問をしない感覚に驚いています。
世耕氏は野党の質問が始まって40分間としか言っていないが、「世耕氏、蓮舫氏を批判ツイート 自民幹部「軽率」:朝日新聞デジタル」 が報じているように、そのタイミングを考えれば、明らかに立民 蓮舫議員の質問を前提にしたツイートである。因みに、「桜を見る会、“ふさわしい人”安倍事務所でどう選別? TBS NEWS」が報じているように、
蓮舫氏の質問は桜を見る会の問題に終始していたが、「29日の参院予算委員会での主なやりとり :日本経済新聞」にも、蓮舫氏と同じ立民の杉尾議員が新型肺炎に関連した質問をしていることが書かれているし、次の動画を見ても、杉尾氏がまず新型肺炎関連の質問から始めたことが分かる。
このような指摘は、朝日新聞の記事にもあるように立民自体が世耕氏や自民に対して行い抗議している。しかし自民の末松国会対策委員長は、「誤解を招いたなら遺憾だ」とお決まりの文句で対応しただけのようだ。
世耕氏の発言の不備を2つ指摘したい。まず1つは、「このシチュエーションで感染症について質問をしない感覚に驚いています」ということは、新型肺炎に関する政府の対応には批判・指摘するべき不備がある、と世耕氏が考えている、という前提になる。若しくは「政府の対応を褒め称えろ」と言っている様でもある。ということだ。前者であれば、自身の所属する自民の議員に、自身が行いたい批判・指摘をさせればいいだけで、なぜ自分とは異なる政党の議員が質問しないことを批判しているのか理解に苦しむ。後者であれば、世耕氏が翼賛体制を望んでいるようにも思える。もしかしたら彼は、政府や与党が一切批判されない/できない中国のような一党独裁を望んでいるのかもしれない。
2つ目は、世耕氏は、
- 桜を見る会の問題にも、カジノ汚職の問題にも触れない施政方針演説をした安倍氏(1/22の投稿)のことをどう思っているのか
- 女性が輝く社会の実現を7年も言い続けているが、2019年世界における日本の男女格差は過去最低のランク付けだったことを無視し、「世界の真ん中で日本が輝いた年だった」と言ってのける安倍氏(1/26の投稿)のことをどう思っているのか
- 在日コリアンを抹殺する・危害を加えるという民族差別的な脅迫が起こっているのに、反応を示さない安倍氏(1/28の投稿、川崎市ふれあい館に爆破予告 脅迫はがき、市長は非難 | 社会 | カナロコ by 神奈川新聞)のことをどう思っているのか
そんなことはないが、万が一野党や蓮舫氏がバランス感覚に欠ける質問をしていたとして、自党の親分もかなりバランス感覚に欠けた、自分に都合のよい主張をしている。しかし、安倍氏がバランス感覚を欠いた都合のよい主張をしていると世耕氏が批判している、という話は一切聞こえないし、彼のSNS等をざっと調べても、そんな形跡は全く見当たらない。
他党は批判するが自党には甘い世耕氏自身の感覚に驚く、と言わざるを得ない。
与党議員が、しかも官房副長官や経産大臣を数年に渡って務めた人物が、SNS上で繰り広げられているような、このような妥当性の低い「○○には触れるのに、○○に触れないのはおかしい」論を主張をしている。世耕氏がこんな人物だから他の大臣もみんな同じ、とは言えないかもしれないが、これまでに放言等で辞任した大臣を考えれば、似たようなレベルの者が今の内閣にもまだいそうだし、安倍氏の内閣が「セクハラ罪という罪はない」「反社会勢力は定義できない」などの閣議決定をしていることを勘案すれば、閣議決定とは基本的に閣僚の全会一致でなされるので、全員にそのような傾向があるのではないか?と疑いたくなる。
トップ画像は、Photo by Anne Nygård on Unsplash を使用した。ジェットコースターを選んだのは、ねじれているを意味する Twisted には「ひねくれている/ひねくれ者」という意味もあるからだ。