朝鮮語や韓国語には明るくないので、あくまでも日本語での情報や英語での報道からの印象ではあるが、北朝鮮メディアは金 日成/ 金 正日/ 金 正恩らを世にも素晴らしい人物だと最大限に持ち上げて伝えているイメージがある。そのような北朝鮮の報道を見ていて、いかにも独裁国家のそれだ、という感しかない。
少なくとも1990年代までは、北朝鮮のそのような状況を、おかしく滑稽で、しかし一方で深刻な問題を孕んでいるものとして、日本からはある意味で対岸の火事としてとらえることができた。しかし2010年代に入って徐々に雲行きが怪しくなり、2010年代後半になると、他人事とは思えない状況になってきた。全く結果の伴わないアベノミクスとやらについて、一方的に成果を強調する政府の主張を、大手メディアが批判もせずに伝えていたことや、首相自身や政府関係者、与党議員による「世界の真ん中で日本が輝いた」とか「かつてない程世界を動かした首相」とか、「G7・G20を牽引」みたいな話をそのまま伝えていたからだ。
- 実態を伴わない景気回復を「戦後最長」と誇る政府とNHK(2019年1/30の投稿)
- 日本が他国から失笑されてしまうような事を言う首相を選んでいるのは、紛れもなく日本の国民(2019年3/17の投稿)
- 「井の中の蛙大海を知らず」を自覚しないと大変なことになりかねない(2019年6/29の投稿)
- かつてない程世界を動かした総理大臣の国連総会演説にしては…(2019年9/30の投稿)
- 2019年日本の男女格差が過去最低だったのに、世界の真ん中で日本が輝いた、という首相(2020年1/26の投稿)
そして、その最新版が共同通信のこの記事だ。
首相、新資本主義で世界をけん引 18日に国際会議で演説へ | 共同通信
政府は13日、岸田文雄首相がスイスのシンクタンク、世界経済フォーラム(WEF)が主催するオンライン会議「ダボス・アジェンダ」で18日に演説すると発表した。関係者によると、成長と分配を好循環させる「新しい資本主義」への日本の取り組みをアピール。新型コロナウイルス禍で揺れる世界経済の変革に向けた議論をけん引したい考えだ。 首相はこれまで新自由主義的な考え方が市場への過度な依存を招き、格差や貧困を拡大させ、気候変動問題も深刻化させたと主張。今回の会合で、問題意識に基づき「経済社会の大変革」の必要性を訴え、世界の政財界のリーダーと認識を共有する場と位置付ける。
この内容の記事の見出しを「首相、新資本主義で世界をけん引
18日に国際会議で演説へ」とするのだから、これは最早北朝鮮メディアの将軍様称賛報道と全く何も違わない。まだ演説もしていないうちから「日本の首相が世界をけん引する/した」と断定する表現の見出しを付けているのだから。
しかも、共同通信は通信社なので、この記事を多くの新聞やテレビがそのまま転載する。こんな実態のないことをまるでメディアが事実かのように伝えている状況は、異様としか言いようがない。岸田や他の大臣の話を、内容も吟味もせずにそのまま伝えるだけでも、それは報道ではなく単なる政府広報である、という問題があるのに、この記事には明らかに報道側の忖度が含まれている。
そもそも、この記事を書いた記者は岸田の言う、新しい資本主義、とは一体何なのか理解しているんだろうか。政府のサイトなどを見ても、岸田の言う新しい資本主義とは、一体何が新しいのかが全然分からないし、そもそも何を目指しどうやって実現するのか、も全く見えない。果たしてそんな話が世界中から称賛されるだろうか。世界をけん引できるなんて当然全く思えない。
- 新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ
- 未来を切り拓く「新しい資本主義」 | 首相官邸ホームページ
- 新しくない「新しい資本主義」では成長もできない WEDGE Infinity(ウェッジ)
- 岸田政権の「新しい資本主義」が“腹落ち”しない理由 | エディターズ・チョイス | ダイヤモンド・オンライン
岸田首相 「新しい資本主義」実現へ 賃上げで具体的成果課題に | 第2次岸田内閣発足 | NHKニュース
NHKも新年早々こんな記事を載せているが、新しい資本主義と言いつつ、岸田が実現を目指すと言っていることには、全く目新しさがない。岸田は昨年「所得倍増とは2倍という意味ではない」のようなことを言っていたが、新しい資本主義も新しい資本主義という意味ではない、とでも言いそうだ。そんな目新しさのないものを首相が「新しい」と言うと、メディアがこぞって「新しい、新しい」と連呼する。馬鹿馬鹿しいとしか言えないし、深刻な状態としか言えない。
そんな馬鹿げた話で世界をけん引する?最早日本のメディアは北朝鮮メディアと大した差がない状態に落ちぶれている。