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不公平な負担、押し付けられる負担

 「なぜ(沖縄)復帰50年に際してハンガーストライキをやらざるを得ない状況があるのかを一番に考えてほしい」。「辺野古」県民投票の会元代表の元山 仁士郎は、5/15の沖縄復帰50年の節目を前に、都内の政府関係各所などにてハンガーストライキを行っている。昨日・5/13には日本外国特派員協会で会見を行い、基地問題が解決しないまま復帰の日を迎えることについてそうコメントした。

「とても祝える状況ではない」沖縄・本土復帰からまもなく50年 ハンガーストライキを続ける男性の思い | TBS NEWS DIG

“ハンスト”元山さん 外国特派員協会で会見 | RBC NEWS


 元山がハンガーストライキで訴えているのは、

  • 辺野古の新基地建設の即時断念
  • 普天間基地の数年以内の運用停止
  • 日米地位協定の運用にかかるすべての日米合意の公開
  • 日米地位協定とそれにかかわる日米合意の民主的な手続きによる見直し

などだ。要するに、沖縄に過剰な米軍基地負担が押し付けられている現状の是正と、不公平な日米関係の正常化を訴えている。
 沖縄に在日米軍施設が集中していることは最早説明不要とも言えるが、沖縄は香川県、大阪府、東京都に次いで4番目に小さい県であり、日本の国土のわずか0.6%の面積しかないのに、そこに在日米軍施設の約70%が集中している。また、沖縄県の面積のうち約8%が在日米軍施設で、沖縄本島に限定すれば約15%にものぼる。東京の総面積は2191km²で、沖縄の総面積は2281km²はであり、沖縄は東京よりもほんの少し広い程度だが、東京の在日米軍施設は7ヶ所・16km²なのに対して、沖縄の在日米軍施設は31ヶ所・186km²と、そこには大きな差がある。

 沖縄に在日米軍施設が集中していることによる問題は、米軍機の墜落が頻発する危険性、米兵による暴力・傷害・殺人事件、強姦事件などがある。どちらについても日米地位協定によって、日本側が主体的に事案の調査や捜査、裁判を行ったり、主体的な対策をすることができず、沖縄は50年前に日本に復帰したはずなのに、実際にはそれ以前の米国による占領時代と変わらない状況がずっと続いている。
 現在の政権与党・自民党やその支持者らには、戦前日本を肯定的に捉える人が多いのだが、なぜ、不平等な日米修好通商条約などを改正した明治政府にならって日米地位協定を正常化しよう!とは思わないのか、とても不思議だ。


 沖縄ではこれまでも、5/15の復帰の日に合わせて、基地のない平和な島の実現を訴える平和行進が毎年行われてきた。2020-21年は新型ウイルスの感染拡大で中止されたそうだが、今年は3年ぶりに行われた。

“基地のない平和な島へ”宜野湾市から9キロの道を「平和行進」 あす沖縄本土復帰50年 | TBS NEWS DIG

 決して元山 仁士郎が特殊な沖縄県民なのではなく、沖縄には彼と同じ思いを持つ人が少なくない、戦後ずっとそんな人達がいた、ということは否定のしようがない。それは、2019年に行われた「普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに対する賛否についての県民による投票」の結果が、投票率52.48%、反対72.2%、賛成19.1%という結果からもよく分かる。

しかし自民政府は、口では「沖縄県民に寄り添う」と言うものの、辺野古の埋め立ても止めようとしなければ、不公平な日米地位協定の正常化をしようともしない。この状況は明らかに、これまでの歴代政権と同様に沖縄に過剰な基地負担を押し付けている、としか言えない。


 押し付ける、というワードは昨日の投稿でも使った。昨日の投稿では押し付けやすいところに手間や責任を押し付ける政治絡みの事案について書いたが、沖縄の件も、押し付けやすいところに負担を押し付ける政治絡みの事案以外の何ものでもない。沖縄に在日米軍施設が集中する理由は、50年前までは日本ではなく、米国が占領支配していたからで、ではなぜ米国が占領支配していたのかと言えば、それは太平洋戦争で本土防衛の捨て石にされたからだ。捨て石という表現に違和を覚える人もいるだろうが、当時の政府や日本軍は、沖縄戦での地上戦に敗北した後、本土決戦をやらずにポツダム宣言受託を決めて無条件降伏したのだから、そう言われても仕方がないだろう。捨て石にされたかどうかは別としても、現在の日本の主要な領土で唯一地上戦が行われた地であることは間違いなく、戦中沖縄は本土防衛の為の負担を負わされたということだけは間違いない。
 また、沖縄は元来琉球であり、日本本土の大和民族とは異なる民族性や文化をもつ国だった。つまり沖縄の問題にも、5/12の投稿で触れた北海道のアイヌ同様、日本の民族問題が背景にある。近代以前には島津藩や明治政府による琉球・沖縄への差別的な扱いがあり、その名残が今もある、と考える人も決して少なくない。勿論現在はその頃に比べれば相当マシではあるだろうが。


 自民政府が押し付けやすいところに負担を押し付ける事例は他にもある。たとえば、原発事故で生じた汚染水の処理問題もその1つだ。

原発処理水の海洋放出に向けた工事中止を要請 福島の市民団体が東京電力に 「さらなる負担と苦悩を強いる」:東京新聞 TOKYO Web

 東電や政府などは、事故で生じた放射能汚染された地下水などを、ALPS:多核種除去設備で処理し、大部分の放射性物質を取り除いたものをALPS処理水と呼称している。そしてその処理水の水質には問題がないとして、海洋放出をしようとしている。しかし、福島の漁業関係者などを中心に地元の反対は根強い。海洋放出すれば魚介類に影響が及ぶ懸念、実際には影響がなくても風評に晒される懸念があるからだ。
 以前の投稿でも指摘したように、自民政府は、2014年11月に「日本環境安全事業株式会社法の一部を改正する法律」を成立させ、福島県内の除染で出た汚染土の30年以内(2045年3月まで)に県外で最終処分することを法律に明記したにも関わらず、その見通しは全く立っていないし、福島県内で再利用の試験をやったりもしており、汚染土についてもなし崩しに福島県内で処理しようとしている気配を感じる。

 このようなことは、原発事故によって生じた負担を、福島やその周辺などの最も被害の大きかった地域に押し付ける行為でしかない。

 もし本当にALPSで処理した汚染水が水質的に問題がないのなら、海洋放出などせずに、どこかの湖にでも放出すればよい。そうすれば他国から海洋汚染の懸念を示されるリスクは限りなくゼロに近くなるだろう。海洋生物に影響が及ぶ懸念、影響が及ばなくとも風評が生じる懸念を排除できる。放出先は、東京の主な水源である利根川水系上流の奥利根湖などがよいのではないか。政府を擁する首都こそ率先して福島の負担軽減に努めるべきではないだろうか。復興五輪と称して東京でオリンピックをやったのだし。
 前述の投稿では、大阪の首長が大阪湾に汚染水を放出してもいいなんて言った件にも触れているが、ならば、他県や日本の領海・排他的経済水域の外にも影響が及びかねない海洋放出ではなく、大阪の水源上流にある琵琶湖でもいいだろう。さすがに水源に放出するのは抵抗があると言うのなら、汚染水は都内、特に官邸や国会議事堂周辺、大阪府の中心等で散水にでも使えばよいではないか。でも、誰もそんな処理方法を提案しない。海洋放出しても問題ない水質なはずなのに


 なぜ、沖縄の基地を私たちの県で引き受けようと言う首長や政治家や、原発事故の汚染土や汚染水を私たちの県で引き受けようと言う首長や政治家が出てこないのか。それは、そんなことを言えば地元で反対が起きるのが目に見えているからだ。反対されたら自分の政治家としての地位が危うくなることがわかっているからだ。それは首長や地方議員だけでなく、国会議員だって同じだろう。日本は議院内閣制なので国会議員が首相や大臣となるが、誰も自分の地元で基地や汚染土・汚染水を引き受けようとは言わない。で、基地は沖縄に、汚染土や汚染水は福島に押し付けようとする。
 にも関わらず、沖縄に寄り添うとか福島に寄り添うとか、調子のいいことを平気で言っているのだ。それが今の自民政府の現実だ。そして日本の有権者は、そんな自民党を、政権を担う与党に選び続けている。つまり言い換えると、日本人全般が都合の悪いことを沖縄や福島だけに押し付けている、と言っても過言ではない。つまり、日本は慢性的なパワハラ・ブラック体質だと言えるだろう。


 自民政府が押し付けやすいところに負担を押し付ける事例には、こんなのもある。

11万6000人の自治体職員が「上限」超える長時間残業 「第4波」の昨年4~6月、総務省調査:東京新聞 TOKYO Web

 新型ウイルス感染拡大が始まった直後なら、それに対応する為に現場に負担が求められこともある程度仕方がないだろう。しかし、昨年の4月-6月は既に感染拡大が始まってから1年以上経過していた時期だ。  つまり日本では感染拡大が始まって1年経っても現場に過度な負担がかかる状況が改善されなかったということだ。というか、現状でもそれは殆ど変わっていないだろう。言い換えると、政治が適切な策を講じずに、ただただ現場に過剰労働させ続けているのだ。
 このような状況はこの件に限らない。たとえば看護や介護の現場、または教員の労働環境も、恒常的にこれが続いている。賃金的にも労働時間的にも労働に見合わない状況が連綿と続けられてきたし、今も全くそれは変わっていない。結局日本は国・社会全般が、やりがい搾取するブラックなのだ。押し付けやすいところに手間も負担も、更には責任まで押し付ける国なのだ。



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