スキップしてメイン コンテンツに移動
 

悪化する日韓関係、漁夫の利を狙う第三国


 これは、明治時代に日本で活動していたフランス人画家・ジョルジュ ビゴー(Wikipedia)が描いた日清戦争に関する風刺画だ。歴史の教科書にも掲載されている事が多く、多くの人が見たことがあるのではないだろうか。魚(朝鮮)を巡って日本と清が釣りで競争を繰り広げている横で、ロシアが虎視眈々と漁夫の利を狙っている様子を描いている。説明するまでもないだろうが、日本と清が朝鮮での権益拡大を狙って戦争しており、ロシアは、両国が戦争で疲弊するタイミングを見計らって朝鮮での権益拡大を狙っているということの風刺である。
 なぜこの風刺画を今日の投稿の冒頭に持ってきたのか。それは、現在の日本の状況と似た部分があるように感じたからだ。


 日本政府は7/4に、韓国への半導体材料輸出の優遇措置撤回を発表した。どう考えても、徴用工問題/慰安婦問題等に関する韓国・ムン ジェイン政権の対応への事実上の対抗措置であることは、7/8の投稿でも書いたように、これまでの日本政府関係者らの主張を見れば誰の目にも明らかなのだが、韓国側が「日本の措置は徴用工問題をめぐる報復であり、WTO協定違反に当たる」という認識を示したことなどもあって、日本側は、WTO協定で安全保障上の輸出規制が認められていることを踏まえ、今回の優遇措置撤回は、韓国の一部の企業等が北朝鮮への制裁を無視して輸出等を行っている懸念を理由とした「安全保障上の懸念」がその根拠であるかのような態度を示している。
 これを受けて韓国では、日本製品の不買運動が一部で起きていると報道されている。「韓国での日本製品不買呼びかけは一過性で盛り上がらないだろう」という見立てもあるようだが、
 韓国メディアは、規制強化発表後、一部スーパーやコンビニの日本製ビールの売り上げが10~20%台減少したと伝える。世論調査会社リアルメーターが11日に発表した世論調査によると、国民の67%が今後不買に参加したいと回答した。
とも報じられている。
 また、この両国の対立激化の影響によって、韓国からの訪日観光客が減少に転じたとも報じられている。これについて観光庁の田端浩長官は「一部のインセンティブ旅行に影響が出ているが、大半を占める個人旅行はほとんど影響ない」とし、現時点で影響は軽微との認識を示したそうだ。但しこれはあくまでも政府による見解で、しかもこの見解が示されたのは参院選の真っ最中であり、また選挙かどうかにかかわらず、政府には「韓国への強硬姿勢で生じる悪影響は最小限」とアピールしたい思惑があるであろうことは、確実に勘案しておく必要がある。その前にそもそも、今の政権下では公文書や統計等の捏造/改竄/隠蔽などが頻発していることからもわかるように、どの国どの政権でも少なからずその傾向はあるが、彼らはその中でも特に都合の良いことしか言わないと思ってほぼ間違いない。
 韓国からの訪日観光客数は、中国からの訪日客数と1,2を争う。韓国からの訪日観光客は、訪日観光客全体のおよそ1/4を占める重要な存在だ。それが2019年に入ってから減少傾向で、しかも減少幅が大きくなる傾向にあることは無視できないし、今後韓国からの訪日客減少が下げ止まり、再び上向く確かな要素があるわけではないので楽観視もできない。

 このような状況下で、ロシアや中国が、日本が韓国への輸出優遇措置を取り止めたフッ化水素等を韓国へ供給することを狙っているという報道もある。また前述の、韓国での日本製品不買運動に関する記事の中には、日本製ビールの売り上げが落ちた分、自国産と外国産ビールの売り上げが伸びたという記述もある。
 ビールに関しては明確な生産国の記述はないものの、中国製ビールが売り上げを伸ばした可能性は否定できない。中国の有名なビールブランドには、韓国と西朝鮮湾で隔てられた対岸に位置する山東省チンタオ発祥の「青島ビール」がある。同社は1999年から2009年まで、韓国でも人気のある「アサヒ スーパードライ」の中国向け生産を請け負っていた。つまり、同社の製品は日本製ビールの代替品になるポテンシャルを秘めた存在だ。
減った分の韓国からの訪日観光客がどこへ向かったか、に関する報道等は今のところ見当たらないが、地理的に考えて日本同様に韓国と近い中国等へ流れている可能性も否定できない。

 このようなことを勘案すると、日韓両国が対立を深めることによって、結果として中国が漁夫の利を得る、という状況が少なからずあると考えられる。それは、この記事の冒頭で、日清戦争の脇で漁夫の利を狙うロシアを描いたビゴーの風刺画の状況と似ていると言えそうだ。日韓政府が対立しても両国民には実質的な恩恵は余りない、それどころか少なからず悪影響を受ける人もいる。それに乗じて第三国が利する可能性があるのに、面子に拘って対立をやめないというのは滑稽な話ではないのか。勿論それは日韓両政府に言えることだ。


 日韓関係を巡っては他にも見過ごせない話題がある。7/18に人気アニメ制作してきた京都アニメーションで放火事件が発生し、34名が死亡する大惨事となった。その容疑者を巡って、「犯人って在日コリアン?」「犯人が在日か韓国籍だったら最悪の展開」、中には「帰ってほしい」などのヘイトスピーチがSNS上で散見された。しかもそんな悪意のあるSNS投稿を、所謂トレンドブログと呼ばれるサイトが更に拡散した。
 台風や地震の災害が発生した際にも、しばしば外国人/在日韓国人・朝鮮人・中国人による略奪が起きた/起きるという流言飛語が発生する。何か事件が起きる度に犯人は外国人/在日韓国人・朝鮮人・中国人ではないのか?という憶測が飛び交う。中には根拠もなく断定する主張まで現れる。大正期に発生した関東大震災の際にも「内朝鮮人が暴徒化した」「井戸に毒を入れ、また放火して回っている」などのデマが広まったそうだが、ハッキリ言ってこの国に住む一部の人達は、その頃、つまりおよそ100年も前から進歩がない。というか寧ろ退化しているかもしれない。


 「韓国人が犯人だ」と言ったわけではないが、テレビ番組にもコメンテーターとして出演する大学教授もこんなツイートをしている。


 しかし実際は、京都アニメーションが放火され多数の犠牲者がでたことを韓国語で嘆くツイートが多数投稿されている。しかもこの大学教授がツイートする以前からだ。更に、韓国メディアが当該案件を取り上げていないというのも事実に反する。

こちらの検索のスクリーンショットからも、如何に多くの関連報道が韓国国内でなされているかが分かる。
 この大学教授のツイートを運営にヘイトスピーチで通報しても、恐らくツイッター社は、昨日の投稿で書いたトランプ氏のツイートと同様に、ルールに反さないという認識を示すだろう。しかし、どう考えても事実とは乖離したことを書いているし、これまでの彼の主張を勘案すれば、そこに韓国や韓国人らを貶める意図があると考えるのは決して不自然なことではない。


 この京都アニメーションの放火事件については、韓国だけでなく多くの国や地域からも反響が示されている。
台湾の蔡英文総統もツイッターで哀悼の意を示したのと同様に、日本の首相・安倍氏もツイッターへ次のように投稿した。


 本来、彼が示した哀悼の意に関しては率直にその姿勢を認めるべきなのかもしれない。しかし、果たして日本の首相として他国の大使館や指導者と同じような意思表示をしただけで、その役割を充分に果たしているのかと言えば、決してそうとは言えないのではないか。日本の首相だからこそ発信できる主張があるのは間違いない。
 前段で示したように、一部の日本国民が同事案を他国・他国民に対するヘイト/差別に悪用している状況が確実にあり、それを安倍氏が知らない筈はない、というか知らなかったなどと言うならその時点で日本の首相失格だろう。つまり彼は、哀悼の意を示すだけでなく、
 韓国とは色々あるが、それでも根拠なく憎悪を煽るような事はすべきでない
という意思表示をして、積極的に全ての国民に冷静な言説を求める・促すべき立場にある。
 にもかからわず彼はそれをしていない。この投稿を書いている時点で、彼が前述のツイートの後に投稿したのは、真っ最中である選挙に関するこのツイートだけだ。つまり、安倍氏にとっての重要度は、一部国民の差別的言説の抑制<選挙 と言えるかもしれない。自国の首相の姿勢としてかなり残念でならない。

 因みにアメリカでは、2017年にバージニア州で白人至上主義者らと差別反対を訴える人達の間で衝突が起き、白人至上主義者が反対派の1人を車で轢き殺すという事件が起きたが、その件について白人至上主義を明確に否定しなかったトランプ氏に強い批判が浴びせられた(2017年8/17の投稿)。
 しかし日本では、安倍氏が嫌韓/嫌中・差別偏見を明確に否定しなくとも、彼に対する批判が起きることは殆どなく、自分のように指摘する人もかなり少ない。当然のように主要なメディアはそれに一切触れない。安倍氏の姿勢が残念なのは前述の通りだが、それに対する指摘や批判が起こらない日本の状況も相当残念だ。日本の民度とは、まだまだ世界的に見て決して高いとは言えない。



 8/2の投稿「日韓関係を悪化させて防衛や拉致問題はどうするの?」は、この投稿の続編的な内容になっています。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。