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薄弱な根拠で断定すると何が起きるか


 写真を老け顔に加工できるスマートフォン用アプリ・FaceAppが人気を博している。このアプリに対して、米国の上院議員・チャック シューマー氏が、「(FaceAppは)米国の安全保障を脅かし、米国市民数百万人のプライバシーを危険にさらしかねない」と警告し、FaceAppがスマホ内の全写真をロシアへ送信しているという噂が広がった。
 BuzzFeed Japanの記事「ロシア製の老け顔加工アプリ「FaceApp」、人気だけど本当に危険なの?」によれば、FaceAppの利用規約には、ユーザーのアップロードした写真について「期間の定めのない、取り消し不能で、非独占的な、無償の、世界全域で有効な、全額支払い済み」という記述があり、それは同種のサービス利用条件としては確かに広範な設定なのだそうだが、現時点では、FaceAppがスマホの写真をロシアへ送信していることの証拠は確認されていないとのことだ。


 この記事を読んでいて3つのことが頭に浮かんだ。

 まず1つ目は、ここのところ日韓対立と並んでメディアが大きく取り上げている常磐道での煽り運転・暴行事件(テレ朝ニュース「“あおり運転”で新映像 「携帯とカバン飛んで・・・」」)に関連して、全く関係のない別の女性が、加害者男性の車に同乗していた女性であるとされ、事実無根のデマが流されたという件だ(BuzzFeed Japan「あおり運転事件「ガラケー女」のデマ被害者が法的措置 リツイート”だけ”も対象に」)。次のムービーはテレ朝ニュースが報じたものだ(「【報ステ】あおり運転事件で“犯人扱い”女性が会見」)。


 この件もFaceAppの件と同様に、薄弱な根拠によってあらぬ疑いをかけられ、しかもそれを信じた者によって誹謗中傷を受ける被害が発生した。この件の発端は所謂「トレンドブログ」と呼ばれるWebサイトだが、それらのサイトが犯人扱いした当該女性とは別の女性が、既に容疑者として逮捕されたことや、その女性が同乗していたことを認めていることを勘案すると、それらのサイトはあることないこと書き立てるフェイクニュースサイトと言っても良さそうだ。
 半ば共犯者扱いされ誹謗中傷の被害を受けた女性は、当該サイトだけでなくSNS上で情報を拡散させた人達、つまりリツイートした人達の責任も問う姿勢を示している。「え?リツイートしただけで?」と思う人、「リツイートは肯定とは限らないのに…」と感じる人もいるだろうが、もし肯定でないリツイート・疑心暗鬼・対象のツイートを疑っているのであれば、コメント付きリツイート機能を用いてその旨を添えておけばよいのではないか。
 個人的には、それらの投稿・リツイート等に「いいね」をする行為もアウトだと思っている。しばしば「私の いいね はメモで必ずしも肯定ではありません」とプロフィール等に書いている人がいる。そんなことを書こうが字面上「いいね」は肯定で、SNSの仕組み上、誰もがプロフィールを読むわけでもない。つまり「いいね」は基本的には肯定と捉えられる性質のものだ。メモならブックマーク機能を使うか、コメント付きリツイートなどで「肯定でない」旨を書いて記録すべきだろう。5/21の投稿でも書いたが、特に一定の影響力のある者が、そんな感覚で「いいね」をするとどんな影響があるのかをよく考えた方がいい。


 2つ目は、「杉田水脈議員の「住所さらし」ツイートは間違いだった 「扇動」責任の行方は」という毎日新聞が報じた件である。
自民党・杉田水脈衆院議員が、天皇制に反対する団体の本部の住所だとしてツイッターに投稿した住所が、毎日新聞が調べで誤りだったと分かった。因みに同団体は住所を公開していないそうだ。杉田議員は「誤りが確認できれば訂正を検討する」としているようだが、そもそも不正確な情報を、あたかも正しい情報かのように騙ること自体に問題がある。前段の話の不正確な情報を拡散したWEBサイトの一部は、無関係の女性を犯人扱いしてはいるものの、それでも一応「らしい、ようだ」などの表記をしている。勿論それでも全く問題がないわけではないが、杉田氏は不正確な住所を「です」と断定しており、更に深刻と言えそうだ。


 杉田氏は昨年「子供を作らないLGBTカップルは『生産性』がないので税金を使って支援する必要はない」という趣旨の主張をした人物でもある(2018年7/23の投稿)。彼女のような人を国会議員として認めている自民党が、もう長い間与党であることに強い懸念を覚える。同記事でも指摘しているように、自身と主張が異なる団体の所在地を拡散させるのは「威力業務妨害など犯罪を助長する危険な行為」になる恐れあり、実際に彼女の当該ツイートに煽られて過激なリプライをしている者も少なくない。
 日米問わず短絡的な主張をする政治家・国会議員が存在しているのはとても残念だ。しかし、どちらの議員も有権者が民主的な方法で選んだ議員であり、つまり有権者にも、似たような考え方をする者、若しくはそのような存在に危機感を抱かない、他人事だと思っている者が少なくないということでもある。


 以上2件は、いい加減な情報を拡散することは好ましくない、ぼーっとしていると無意識にそのようなことに加担しかねない、というような話だが、最後の3つ目だけは少し視点が異なる。冒頭で紹介した記事を読んで頭に浮かんだ3つ目は、「知らぬ間にネット履歴分析、着々 リクナビ問題の本質」という朝日新聞の記事だ。この記事は、就活情報サイトの「リクナビ」が閲覧履歴をもとに就活生の内定辞退率を予測するサービスを企業に提供しており、同サイトの利用者の一部から同意を得ていなかった(朝日新聞「リクナビ、内定辞退予測サービス廃止 情報保護法に違反」)という件の続報である。朝日新聞は「見られているネット行動履歴 就活生だけの問題じゃない」という記事も掲載している。 
 リクナビの件で、日本でも再びWEBサービス・アプリケーションが個人情報を収集している恐れがあることが取り上げられたが、例えばFacebookには7月、不適切な個人情報の取り扱いに関する制裁金として50億ドル(約5400億円)が科せられるなど、これまでにも、個人情報の不適切な取り扱いに関する事案は多く発生している。WEBサービス・アプリケーションを利用するなら、利用者は個人情報を提供していることを意識しなくてはならないし、場合によっては不正にその情報が用いられる恐れもあることを認識しておくべきだ。サービス提供者が適切に個人情報を扱っていたとしても、不正アクセス等によって第三者が情報を悪用する恐れがあり、どうやってもその懸念をゼロには出来ない。
 余談ではあるが、個人的に、買い物履歴というかなり重要な個人情報を作ることになる為、それがどこでどう用いられるか、どこから流出するかわからない電子決済サービスを利用する気になれない。クレジットカードは一応持っているし、他の個人情報と紐づけられない無記名スイカは使用しているが、個人情報の塊であるスマートフォンと紐づけるタイプのサービスなどは、例え「○○還元」という人参をぶら下げられても、それ以上のリスクが生じてるとしか思えない。

 しかしそれでも、明確な根拠もなしにあらぬ疑いをかけるのは褒められる行為ではない。「個人情報が悪用される恐れがある」という見解を示すことは否定されないだろうが、根拠もなく「個人情報が悪用されている」と断定してはならないし、明確ではない根拠を理由に、十中八九個人情報が悪用されいるかのように、不安を過剰に煽るのも決して適切とは言えないだろう。
 どんなことでも、さじ加減を間違うと思いもよらない影響が起きる。さじ加減は感覚的なもので、ある意味では人それぞれだろうが、それでも、2つ目の件の杉田氏のさじ加減は、特に国会議員としてはあるまじきバランス感覚と言っても過言ではない。


 トップ画像は、Gerd AltmannによるPixabayからの画像 を加工して使用した。

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