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アウトなセイジ家


  NHKから国民を守る党の党首・立花 孝志氏が、参議院議員を辞職する意向を明らかにした。7月の参院選の比例区で当選を果たした議員を辞して、大野 元裕氏が8月に行われた埼玉県知事選挙に立候補したことによって議員を辞職したのに伴って行われる、10/10告示・10/27投開票の埼玉県参院補選に出馬するという。彼が比例区当選で得た議席を手放すと、7月の参院選で落選した同党の浜田 聡氏が繰り上げ当選となる(N国・立花孝志党首、議員辞職の意向表明。参院補選の立候補も示唆。「必ず戻ってきます」 | ハフポスト)。
 参院議員を辞してまた参院選に立候補する、しかも辞する議席を得てからたった2か月強であり、彼はまだ殆ど議員として何もしていない。どう考えてもおかしな話である。


 それとは別に立花氏は他にも、堀江 貴文氏が「NHKから国民を守る党」の公認候補者になることが決定した、と10/1にSNS等で発表した。「堀江氏は比例区1位で出馬して当選後、引退して繰り上げ当選で2位や3位の党員に議席を譲ることが目的」なのだそう(堀江貴文氏が『NHKから国民を守る党』の公認候補者に。当選後は引退して議席を譲る方針(追記あり)(篠原修司) - 個人 - Yahoo!ニュース)。公職選挙法上の問題がなかったとしても、こんな代理人による選挙への立候補のような手法が、果たして政治倫理上許されるのだろうか。埼玉県参院補選には立花氏ではなく浜田氏が出馬すべきだし、当選後の辞職を前提に立候補するなんてのも適切な政治活動の手法とはとても言えない。昨今しばしば「法的に問題はない」と正当性をアピールする場面に出くわすが、それは「道徳・倫理的には問題がある恐れ」を暗に示唆しているようにも思う。
 数年前に、法的には販売に問題のないドラッグが流行り、巷では「合法ドラッグ」と呼ばれていたが、政府とメディアは「脱法ドラッグ」、影響が深刻化して以降は「危険ドラッグ」と呼称し、その不適切さをアピールした。つまり、法的に販売に問題ない商品ではなく、法の隙をついた不適切な商品という論法で「脱法/危険ドラッグ」と称したのだ。
 法的に問題はないが法の隙をついた道義的には不適切なドラッグを「脱法/危険ドラッグ」と呼ぶなら、法的には問題ないが政治倫理には反する選挙活動を展開する、法の隙をつく政治家は「脱法政治家」または「危険政治家」だろう。政府は別としても少なくともメディアは、そのように呼称して活動手法の不適切さや危うさを強調すべきではないのか。それともメディアも概ね「法的に問題はないから、大した問題でもない」と考えているということだろうか。


 安倍首相は、10/7の衆院本会議での立憲民主党代表・枝野氏の質問に対する答弁の中で、
 米国とトウモロコシ購入で約束・合意した事実はない
と述べたそうだ。厳密には「害虫の被害拡大により、代替飼料を民間が前倒し購入する。トウモロコシはその多くが米国から購入されているため、(米国産トウモロコシの)前倒し購入が期待されるが、(大統領と)購入を約束や合意した事実はない」と述べたらしい(米とトウモロコシ購入、約束・合意した事実ない=安倍首相 - ロイター)。
 しかし8月にフランスで行われたG7へ出席した安倍氏とトランプ氏が会談した際に、「日本がアメリカの余剰トウモロコシを購入することで一致した」と、「米中摩擦で余ったトウモロコシ、日本が“肩代わり“。トランプ大統領「日本は民間が政府の言うことを聞く」 | ハフポスト」など複数のメディアが報じている。ホワイトハウスもツイッターで、トランプ氏の発言を引用し、次のように投稿している。


このツイートの内容は、「ドナルド トランプ大統領曰く、中国が約束を反故にしたので、私たち米国とその農家の多くはトウモロコシを余らせている。そして安倍 晋三首相が日本を代表して、そのトウモロコシをすべて購入してくれる」だ。また、日米貿易協定で最終合意について報じる先月の記事、「日米貿易協定で最終合意、自動車は追加関税回避-共同声明発表 - Bloomberg」にも、
 トランプ大統領は、米国産の小麦とトウモロコシを日本が大量に購入すると言及
とある。安倍氏の答弁内容が事実であれば、トランプ大統領が嘘をついていたか、少なくとも、安倍氏がしばしば「やめて欲しい」とする印象操作をしていたことになりそうだ。何故彼は1ヶ月以上もの間「トランプ大統領の発言は事実ではない」という指摘をしてこなかったのか。「トランプ大統領は印象操作を止めて欲しい」と訴えなかったのか。

 このトウモロコシ購入の件に関しては、政府のスポークスマンである菅官房長官も、安倍首相が日米首脳会談で表明した米産の飼料用トウモロコシの前倒し購入に関して、国内での害虫被害が理由だと説明した、と「トウモロコシ、害虫被害で不足 官房長官、米産購入を説明 :日本経済新聞」が伝えているし、当時外務副大臣だった自民党・佐藤 正久氏も、



とツイートしており、「購入することになった」と明言している。
 安倍氏の発言が事実に即しているのなら、政府を代表して会見に臨む菅氏が、「購入が決まったわけではない」と前置きしなかったのも不可解だし、佐藤氏については、明らかに安倍氏の答弁とは相反する主張をしている。菅氏の発言は、トランプ大統領の発言と同様に嘘、嘘でなくても印象操作には当たるだろうし、安倍氏の答弁が嘘でなければ、佐藤氏の発言は確実に嘘になる。首相が嘘をついたのでなければ、トランプ氏/菅氏/佐藤氏の3人が嘘つきということになりそうだし、嘘つきの定義を緩めて考えたとしても、少なくとも首相か外務副大臣のどちらかは嘘をついている。そんな政権で本当に日本は大丈夫だろうか(そう強く指摘されれば、恐らく佐藤氏が「勘違いだった」という意思表示をすることになるだろうが、そんなことが「勘違い」で済ませられるはずもないし、現政府にまつわる嘘案件はこれに限らず複数あるので、決して大丈夫なはずがない)。


 脅迫と政治家からの圧力を受けて、たった3日で中止に追い込まれた(8/3の投稿8/4の投稿8/7の投稿8/29の投稿)、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展 その後」の公開が10/8に再開した。圧力をかけた政治家の一人、名古屋市長・河村 たかし氏が、これに対して抗議し会場前や愛知県庁前で「座り込み」をしたそうだが(【動画】名古屋市長がトリエンナーレに抗議の“座り込み” 「それも作品の一部」との声も)、座り込みと言ってもたった数分間のことであって、「単に老人が座り込んでしまっただけ」なんて冗談も囁かれている。
 前述の記事を書いた籏智 広太さんのツイートを見ても分かるように、



彼は「日本国民に問う! 陛下への侮辱を許すのか!」というプラカードを掲げている。彼が「陛下(昭和天皇)への侮辱」と指摘しているのは、恐らく同展に展示されている大浦 信行さんの作品「遠近を抱えて」や、嶋田 美子さんの作品「焼かれるべき絵」のことだろう。これらの作品は、メディアでしばしば「昭和天皇の写真を焼いたように見える作品」などと表現される。
 河村氏も含め、多くの日本人が毎日のように新聞を購買しており、新聞には頻繁に天皇の写真が掲載されるが、それを全て切り抜いてから廃品回収に出すなんて奇特な人はほぼいない。つまり日本人の大多数が天皇の写真を躊躇せずに廃品として処分し、場合によっては焼却することもあるだろう。つまり河村氏らは「天皇の写真を燃やすな!」とシュプレヒコールを上げているが、天皇の写真を焼いたとしてもそれを侮辱と断定することは出来ない
 もし万が一、天皇の写真を焼く行為が天皇への侮辱とイコールで結べたとしても、「遠近を抱えて」の解説に、
 本作は(86富山の美術)展覧会終了後、県議会で「不快」などと批判され、地元新聞も「天皇ちゃかし、不快」などと報道し、右翼団体の抗議もあり、図録とともに非公開となる。93年、美術館は作品売却、図録470冊全て焼却する。その後、6年越しで争った作品公開と図録再版の裁判も敗訴する。2009年沖縄県立博物館・美術館「アトミックサンシャインin沖縄」でも展示を拒否されている。
とあるように、天皇の写真、というか天皇の写真を用いた作品とその図録を焼いたのは、展覧会を行った富山県立近代美術館であり、焼かれるきっかけをつくったのは「不快」などと批判した県議会であり、「不快」と報じた地元紙であり、抗議を行った右翼団体だ。作者の大浦さんが天皇の写真を焼いたわけではないし、大浦さんはその一連の出来事への意思表示として、焼かれているように見える映像作品を制作したに過ぎず、決して天皇を侮辱する意図が含まれているとは言えない。嶋田さんの作品も、その一連の経過を表現したものであり、作者の嶋田さんが天皇を侮辱する意図を込めて、天皇の写真を焼いたように見える作品を制作したとは言い難い。つまり、一部の人達、特に作品どころか公式サイトの説明すら閲覧していないような人達や、作品を目の当たりにしたにもかかわらず、河村氏が行っている、「作品や作者らは天皇を侮辱している、天皇を侮辱するという明確な意図をもって作られた作品を同展が展示している」という指摘は、不当なレッテル貼りだ。河村氏は現場を視察したようだが、非難ありきで作品に触れた為に作品の説明すらちゃんと読んでいないのかもしれない。
 地方自治体の首長が、到底実態に即しているとは言い難い見解を、あたかも真実かのように声高に主張することは断じて容認できない。


 最近SNSを見ていると、あまりにも表面的にしか物事を見ていない、としか言いようがない、短絡的で現状認識力の欠けた主張をする人が多いと思っていたが、まさか有力自治体の首長が、身を以てその1人であることを証明をするような状況になるとは、少なくとも10年前までは予想だにしなかった。
 しかしよく考えてみれば、そんな政治家・首長は河村氏が初めてなわけでもない。もう既に国の長が、例えば、景気後退を示す複数のデータがあるにもかかわらず「景気は悪くない」と言ってみたり、この投稿でも示したような嘘や、少し触れた日米貿易協定の最終合意について、交渉相手の米国大統領が「米国農家の大勝利だ」と言っている脇で「日米ともウィンウィンだ」などと言ってみたり、矛盾に塗れた発言を恥ずかし気もなく、そしてしばしば行うような状況が、数年前から日本では存在し続けている。
 もうひとつ付け加えおくと、安倍氏は10/7の衆院本会議での答弁の中で、
 安倍政権に対する連日の報道を見れば、おわかりいただけると思いますが、萎縮している報道機関など存在しないと考えています
と述べたそうだ。しかし日本の報道の自由度については、再三に渡って国外から指摘を受けている現状がある(7/7の投稿)。安倍氏や菅氏は都合が悪い指摘に対して「批判は当たらない」などと、あたかも指摘する側の嘘、嘘は言い過ぎでも誤解だと、大した根拠も提示せずに言い切る。しかし、この投稿でも指摘したように現政府の嘘は枚挙に暇がない。嘘つきが誰かのことを嘘つきだと言っている場合、十中八九嘘をついているのは指摘されている側でなく指摘している嘘つきの方である。
 首相を筆頭にこのような政府関係者らを、ビー玉レベルの視力で「他よりマシ」なんて言って有難がっている限り、この投稿で紹介したような「アウトなセイジ家」は今後も更に増殖し続けるだろう。日本の有権者は、それが自分や自分の子ども世代の生活にどんな影響を及ぼすかを真剣に考えたほうがいい。

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