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支持を得た(得ていない)、合意した(協議をする)という歪曲

 太平洋戦争を始めた翌年、ガナルカナル島の戦いで餓死者を含む多くの犠牲を出し敗退せざるをえなかったにもかかわらず、当時の軍と政府は面子にこだわり、敗北を認めることを嫌い、「転進」という表現による印象操作を行った。それ以降日本軍は転進と称した撤退を繰り返した(転進とは - コトバンク)。


 転進と同じく「玉砕」も、全滅という表現を嫌った軍や政府による印象操作の為の表現だった(玉砕とは - コトバンク / 玉砕 - Wikipedia)。そうやって現実から目を背けることで、戦争による悪影響は拡大、1944年にはサイパンを含むマリアナ諸島を攻略され、遂には日本本土への空襲が始まることになる。日本中の都市が空襲に晒され多数の犠牲を出し、沖縄も奪われ、更には広島と長崎に原爆を投下されることにもなる。

  • 負けを認めなければ負けじゃない
  • 間違いを認めなければ切り抜けられる

のような態度の人が、日本の政府と与党、そしてその関係者らなどには、あまりにも多過ぎる。そのような姿勢が80年前の戦争で一体何を引き起こしたのか、に鑑みれば、それが大変な間違いであることはあまりにも明白だろう。

 「往生際が悪い」という表現がある。往生際とは、追いつめられてどうしようもなくなった時、あきらめなければならなくなった時の態度や決断力のことだ(往生際とは - コトバンク)。「往生際が悪い」はつまり、非を素直に認めようとしない態度、潔くない姿勢のことを言う。
 往生際の悪さは、場合によっては諦めない姿勢、不屈の精神など、肯定的なニュアンスを帯びることもあるが、一方で日本人にとって「潔さ」は美徳だった筈だ。戦争中には、敵の捕虜となって辱めを受けるくらいなら、潔く自決しよう、というような空気が支配的になり、多くの兵隊、兵隊だけでなく非戦闘員までその道連れにされたようだが、一方で軍と政府は、潔く過ちを認めることができず、その結果兵隊や市民などが「潔い死」を迫られるという、なんとも矛盾したことが起きていた。


 現在のコロナ危機下の日本においても、そのような歪曲と印象操作がいくつも行われている。例えば、「まん延防止措置」なんてのはその典型的な例だ。感染が蔓延してから措置が行われるのだが、緊急事態宣言とほぼ変わらない措置を「まん延防止」と標榜することで、緊急事態ではない、まだ蔓延はしていない、という印象を強調したいのだろう。
 直近、新規感染者の増加に歯止めがかからず、一部で緊急事態の再宣言が検討されている。ということはまん延防止措置には蔓延を防止する効果がなかったということだ。その責任は一体誰がとるのだろうか。誰も責任を取らずに「気の緩み」などと、市民への責任転嫁がまた行われてるのだろう。政府や自治体の首長は、休業や時短営業に応じない店への罰、ペナルティをチラつかせていたが、ペナルティをチラつかせていた側は誰もペナルティを受けない。

 4/17の投稿で書いた、訪米しバイデン大統領と会談した菅が、「バイデン大統領から(開催の)決意に対する支持を改めて表明していただいた」と述べたことも、まさにその類である。ホワイトハウスの公式な声明にはこうある。

U.S.- Japan Joint Leaders’ Statement: “U.S. - JAPAN GLOBAL PARTNERSHIP FOR A NEW ERA” | The White House

President Biden supports Prime Minister Suga’s efforts to hold a safe and secure Olympic and Paralympic Games this summer. Both leaders expressed their pride in the U.S. and Japanese athletes who have trained for these Games and will be competing in the best traditions of the Olympic spirit.

日本語に訳すと「バイデン大統領は、今夏のオリンピック・パラリンピックを安全かつ確実に開催するための菅総理の努力を支持します。両首脳は、この大会のためにトレーニングを積んできた日米のアスリートたちが、オリンピック精神の最高の伝統の中で競技に臨むことを誇りに思うと述べました」だ。これについて菅は、

令和3年4月16日 日米共同記者会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ

バイデン大統領からは、この(開催を実現するという)決意に対する支持を改めて表明していただきました。

と言っているのだ。
 バイデンが支持したのは何が何でも開催するという決意ではない。開催する為に必要な努力を怠らないことを支持したのだ。つまり、必要な努力がなされないなら開催を支持しない、という含みすら感じられる。それをあたかも「五輪開催を米国に支持してもらった」かのように言う首相も、その大本営発表をそのまま伝える一部メディアも本当に戦中のそれと何も違わない。


 現在日本は、先進国内のみならず、世界全体で見てもワクチン接種が遅れた国である。

世界のワクチン接種状況|NHK

 そんな状況なので、日本人の多くが一体いつワクチン接種できるのかと心配している。4/16の投稿では、政府や与党がオリンピック開催の為に、医療関係者や高齢者よりも選手へのワクチン接種優先をしようとしている、という全く理解しがたいことについて書いたばかりだ。

 菅は訪米中に、ワクチンの供給について、ファイザー社のCEOと電話会談を行ったそうだ。わざわざ訪米して電話会談か…ということにも溜息が出るが、それよりも印象操作の方が更に酷かった。毎日新聞が、

首相「9月までにワクチン供給めど立った」 ファイザー社と合意 | 毎日新聞

菅義偉首相は19日午前、新型コロナウイルスのワクチンを巡り、米国訪問中に行った米ファイザー社トップとの電話協議について、「我が国の(接種)対象者に対し、確実にワクチンを供給できるよう追加供給を要請した。9月までに供給されるめどが立ったと考えている」と述べた。
首相は17日、ファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)と電話協議し、ワクチンの追加供給や迅速な提供を要請した。河野太郎行政改革担当相は18日、国内対象者のワクチンを9月中に調達することで、政府とファイザー社が合意したと明らかにしていた。

と報じている。河野が何を以て「合意した」と言っているのかと言うと、

9月末までに全対象者分確保へ 追加供給で実質合意

というフジテレビの記事は、こう書かれている。

  • 菅首相は、17日の電話会談で、ファイザー社製ワクチンの追加供給を要請し、ブーラCEOは「追加供給などに向けた協議を迅速に進める」と応じた
  • 河野規制改革相「9月の末までに日本が入手できるすべてのワクチンで、接種対象者のワクチン接種を完了できる。それに足りる分だけ、ファイザー社にも追加で供給をお願いした。総理とCEOでクローズした。実質的に合意はなされている

ファイザー側は「追加供給などに向けた協議を迅速に進める」としか言っていないのに、河野はこれを根拠に「実質的に合意」と言い、それをメディアがそのまま報じているのである。

 もしかしたら、本当に合意に近い意思疎通があった可能性もあるが、これまでの日本政府の姿勢を見れば、そんな話はにわかに信じがたい。昨年・2020年6月、当時首相だった安倍は「年末ぐらいには接種できるようになるかもしれない」と言っていたし、菅は今年の2月に「ワクチンの確保は日本は早かったと思うが、接種までの時間が遅れていることは事実だ。日本の手続きの問題もあると思う」と言っていた。昨年末までに接種は始まらなかったし、ワクチンの確保が早かったなら、なぜ今ファイザーとの交渉や合意が必要なのか。嘘としか言いようがない。


 戦中に敗退を転進と、全滅を玉砕と言い換えたのと同じこと、いやそれ以上の政府による歪曲と印象操作が行われ、その大本営発表をメディアが垂れ流しているのに、それでもその異様さに多くの有権者が無頓着なのが、今の日本である。

 

 トップ画像は、水木しげるの漫画・総員玉砕せよ!から2コマを使用した。

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