1862年に奴隷解放宣言がされてから約160年経っても、1950-60年代の公民権運動の結果、職場、公共施設、連邦から助成金を得る機関、選挙人登録における差別と、分離教育を禁じる1964年公民権法が制定されてから約60年経っても尚、アメリカには人種差別が根強く残っている。それどころか、ほんの4年前、アメリカでは人種差別を否定しない大統領が選ばれた。
アメリカでは昨年、黒人男性が警察官の不当な扱いによって殺されたのをきっかけに、BLM運動が起こった。それがようやくある程度の沈静化を見せたかと思ったら、今度はコロナ危機を背景にアジア系への差別と暴力事件が増えているという。
東京新聞は今朝、そんなアメリカの実状・人種民族差別を嘆き、差別を解消しなければならないという趣旨の社説を掲載している(<社説>米国の憎悪犯罪 人種差別解消へ努力を:東京新聞 TOKYO Web)。その中で
トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」と呼んで中国叩きを繰り返したことがアジア系市民への反感を増幅させた
ということにも触れているのだが、それらの事案を社説で扱うなら、日本国内の人権問題、政府対応の悪さにも触れるべきだったのではないか。例えば「日本もアメリカの現状を反面教師にしなくてはならない」のような表現で。
何故なら、日本は決してアメリカの現状を強く批判できるような状況ではないからだ。つまりそのような表現なくアメリカの現状を批判することは、自国の現状を棚に上げているようにも見える。日本における人種差別は米国ほど深刻ではないが、排外主義は同程度かそれ以上に深刻で、性差別や民族差別は米国以上に深刻だ。また人権意識に関しても日本の方が低いと言わざるを得ない。
多文化交流施設「川崎市ふれあい館」に、「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら残酷に殺して行こう」と書いた手紙を送った70歳の男に対して、昨年・2020年12月に実刑判決が下された(ヘイト元市職員に実刑 ふれあい館脅迫、地裁川崎支部 | カナロコ by 神奈川新聞)。そんな事件から約1年、実刑判決からたった3か月しか経っていないのに、また同種の事案が発生している。
- 「コロナ入り残りカスでも食ってろ」在日コリアン館長にまた脅迫文書、ヘイトクライムに怒り:東京新聞 TOKYO Web
- 普通に生きられない…在日コリアンに「コロナ入り食べてろ」卑劣文書 続く苦悩と恐怖:東京新聞 TOKYO Web
3/22の投稿でも書いたように、同じタイミングで同じ神奈川県の相模原市で、在日コリアンに対するヘイトデモやヘイトスピーチの様子が記録されたDVDが、相模原市内の集合住宅のポストに複数投函される事件が起きているし、現在開催中の選抜高等学校野球大会・所謂春の甲子園出場を果たした、韓国系の私学・京都国際への差別的な言説を、SNS上などでしばしば見かける状況だでもある。
日本には戦前からずっと在日コリアン差別があり、しかもインターネットの普及などの影響で、近年は以前にも増して深刻化しているとすら言えそうな状況がある。しかし、自民政権の首相は、いくら在日コリアン差別・その他の外国人差別事件が起きようが、「人種民族差別をしてはならない」という明確な意思表示をしない。少なくとも昨年の川崎ふれあい館の件に、当時首相だった安倍は触れていないし(1/28の投稿)、このところまた同様の事件があり、しかも別の在日コリアン差別事件も起きているのに、現首相の菅もそれに触れない。
自民政権の首相は、白人至上主義を明確に否定せずに、反対派も悪いと強調したトランプと同種だ。人権意識が低いと言わざるを得ない。
オリンピック組織委会長だった森の女性蔑視発言が批判を浴びたのは先月のことだが、
その森が、3/26に東京都内で開かれた自民党の河村 建夫 元官房長官のパーティーでの挨拶で、河村の衆院議員会館の事務所に勤める女性スタッフに言及し、
河村氏の部屋に大変なおばちゃんがいる。女性と言うにしてはあまりにもお年なんです
と述べたそうだ(「女性と言うにはあまりにも年」 森氏発言、蔑視と批判も:時事ドットコム)。前述の2/5の投稿で取り上げた、釈明にもなっていない釈明を見れば、森が「何が悪いんだよ」と思っていることは明白で、そんな森にパーティーで挨拶させる政治家も同種であろう。
森は既に政界を引退したことになっている人物だが、森同様に放言を繰り返す男が自民党内にもいる。それは自民政権でずっと副首相を務める麻生という男で、これもいつも釈明にもならない逆ギレ会見をやる。にも関わらず、しばしばパーティーなどで放言を繰り返す。森や麻生のような者に挨拶をさせる政治家、麻生をずっと副首相にしている自民党は、人権意識が低いと言わざるを得ない。
日本の人権意識の低さは政界だけに限った話じゃない。
都立高校入試の“男女別定員制” 同じ点数なのに女子だけ不合格? | NHK
東京医科大などで女性や浪人生に対して不平等な得点の操作をしていたことが2018年8月に発覚したが(2018年8/5の投稿)、都教委はそのことを知らないのだろうか。一体何を言っているのか、何をやっていたのかという感しかない。
また、教育に関しては、黒髪強要や下着の色を検査したりする理不尽な校則、所謂ブラック校則の問題も未だにくすぶっている。
電通の「働き方改革」波紋 中高年社員の早期退職募り、4月から個人事業主に :東京新聞 TOKYO Web
名ばかり管理職が問題になったのはもう10年以上前のことだ(管理職#「名ばかり管理職」の問題 - Wikipedia)。また昨今、Uberなどに関して、日本だけでなく国外でも名ばかり個人事業主が問題になり、イギリスでは、Uberが契約する運転手7万人は全員が従業員である、と裁判所が判断を下したばかりだ(ウーバー、英国の運転手7万人を従業員に変更-英最高裁判断受け - Bloomberg)。
これらの事案から判断して、日本は人種民族差別に疎く、女性や未成年、労働者など社会的に立場が弱い者の権利を軽んじる国、であることは間違いない。
人権の問題を完全に解消している国は世界中探してもないだろう。人権の問題は人類が人類である限りずっとつきまとうものだろう。しかしそれでも、日本の状況は間違いなく時代遅れであり、少なくとも1990年で止まってしまっていると言わざるを得ない。
トップ画像は、File:昭和初期頃の永楽屋.jpg - Wikimedia Commons を加工して使用した。