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タリバンと歌舞伎とバ美肉

 米軍が撤退した後のアフガニスタンで、再び支配を確立しつつある勢力・タリバンが、テレビ局に対し、女優が出演するドラマの放送を中止するよう通達したそうだ。これは、イスラム教の女性観に基づく方針なのだろうが、明らかに現代的な価値観と逆行するものだ。

タリバン、女優出演ドラマの放送中止を通達 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

 この記事を読んで、400年前に女郎歌舞伎(や若衆歌舞伎)を禁じた江戸時代の日本のようだ、と感じた。歌舞伎の元祖は出雲阿国という女性であり、当初は遊女屋などで行われる女性による出し物だった。女郎歌舞伎はわずか10年程度で全国に広まるほどの人気を得たそうだが、演じる遊女らをめぐるいさかいが絶えなかったそうで、幕府は女郎歌舞伎を禁止した。
 それで男だけが演者となる、現在も続いている野郎歌舞伎が確立し、当然女性の役も男が演じることになり、女形が誕生した。それは今日のトップ画像に使った浮世絵にも示されている。中央の遊女を演じているのは男性であることが、その役者の名前から分かる。

 タリバンがやっていることはおよそ400年前に江戸幕府がやったことと大差ないが、しかし日本人は決してタリバンを時代遅れだと笑ってはいられない。なぜなら、この国では未だに、少なくとも先進国では最早当たり前になっている同性婚や選択的別姓が認められていない。そして、それらを認めるつもりがないことが明らかな政党がおよそ9年間も政権の座にあり、そして先月の衆院選でも再び政権を担う与党に選ばれたのだから、日本の有権者は決してタリバンを笑えないし、批判しても”お前らの国もどんぐりの背比べだ”と言われてしまうだろう。


 昨夜の DOMMUNEは、VR/サイバースペース/メタバースに関連した番組 ”au5G Presents「NEWVIEW DOMMUNE」Vol.6 「Virtual Burn|Terra Incognita」BURNING MAN VR と世界のXR FES、XR CLUB” を配信していたのだが、

au5G Presents「NEWVIEW DOMMUNE」Vol.6 - DOMMUNE

当然VRスペースに関連して、そこでの自分の分身であるアバターの話も絡んでくるわけで、所謂 バ美肉・バーチャル美少女受肉、バーチャルYouTuberやバーチャルアイドルとして利用される美少女アバターも話題になっていた。

 バ美肉とはその名の通り美少女キャラ風アニメ調アバターを指す。本来は男性に限らず、女性が演じる美少女キャラアバターもバ美肉の範疇なのだが、一般的に話題になりがちなのは、おじさんがボイスチェンジャーなどを使って演じる美少女キャラだ。それは本来バ美肉おじさんと表現すべきなのだが、バ美肉だけで、おじさんが演じる美少女キャラ、いや美少女キャラを演じるおじさん、という認識が広がりつつある。

 DOMMUNEの番組でも概ねバ美肉おじさんをバ美肉として話がなされていたこと、その直前に前述のタリバンの記事を読んでいたこと、そして Impress Watch Akiba PC Hotline! の、80年代・黎明期のアダルトソフト事情に関する記事を読んでいたこともあって、バ美肉は歌舞伎の女形と共通点がある、と感じた。

80年代のアダルトソフト事情&ソフトハウス主催のプログラムコンテスト ~永久保存版 レジェンドパソコンゲーム80年代記~ - AKIBA PC Hotline!

 美少女キャラを演じるのがおじさんという、演じる者と演じる役・ガワと中身の非同一性という点だけでもバ美肉と歌舞伎の女形には共通点があるのだが、それだけでない共通点を感じさせたのは、Akiba PC Hotline! のこの記事の内容だった。
 記事は1980年代に美少女/ロリコンブームが起こり、所謂オタクが美少女/ロリコン趣味を好む傾向が生じたことに触れている。それ以前のエロ絵は劇画調が主流だったそうだ。日本のアダルトゲーム黎明期の代表作にロリータ[野球拳]があり、その後も多くの美少女キャラ/ロリコン趣味のアダルトゲームが発売された。

 美少女キャラブームはアダルトゲームや成人向けアニメだけでなく、一般向け作品にもその傾向があった。例えばガンダムシリーズのZZガンダムでも、明らかに幼児体形のキャラクターの全裸が描写されるカットが複数含まれている。それが性的な表現か、文脈上必要な性的でない表現か評価は分かれるだろうが、近年小児性愛に対する懸念と嫌悪感が高まっており、今では考えられない表現ではある。
 1980年代の美少女ブーム以降、所謂オタク系コンテンツに美少女は欠かせない要素となっており、美少女キャラが登場するアニメやマンガ、ゲームが、成年向け・一般向け問わず継続的かつ大量に作られ続けている。しかし、国外での未成年(に見えるものを含む)キャラに関する服装などへの基準は、明らかに日本のそれよりも厳しく、例えば前述のZZガンダムのような描写も許容されないし、その傾向は日本でも間違いなく高まっている。しかし、1980年代-1990年代の感覚のままアップデート出来ない一部の人達(そのリアルタイム世代とは限らない)が、その感覚のまま表現活動をすることで、それ以外との摩擦がしばしば起きる。

 直近で言えば、千葉県警が啓発動画に用いたバーチャルYoutuberの件などがそれに該当するだろう。そのような件については、このブログでもこれまでに複数取り上げてきた。

 エロ/非エロの線引きに、これが絶対的に正しいというものはない。1990年代以前はテレビやアニメに結構女性の裸が出てきたし、未成年キャラの裸が描写されることも少なくなかった。当時はそれが普通だった。しかし今は小児性愛問題の深刻さや、感化されてしまう未成年者や未成年時に感化された感覚を成人以降も引きずる者が生じる懸念から、一般向け作品や公共の場で使う掲示物などに関して、性的な描写を含む表現、特に未成年キャラ(に見えるキャラを含む)の性的要素を含む描写への基準は厳しくなっている。それが今の基準である。
 勿論、成人向けも含めて未成年に見えるキャラの性的要素を含む描写を禁止する、ということに自分は全く賛成できない。しかし、一般向け/公共的な掲示物からは排除すべき、という感覚は決して非合理的とは言えず、それを否定できない。いやむしろその考え方に賛同する。


 ロリコン趣味は全否定はされていないものの、今は1990年以前のようなおおらかな目で見てもらえない状況なのは事実で、アニメやマンガなどの創作作品でもロリコン趣味は厳しい目に晒されている。一切禁じられた女郎歌舞伎とは異なるが、それでも状況として重なる部分はある。そしてバ美肉がロリコン趣味と大きく重なる部分のある美少女キャラを指す表現であり、それを演じているのがおじさんである、という点で歌舞伎の女形と似ていると感じるのだ。
 バ美肉をやるおじさんが皆ロリコン趣味とは限らず、女装癖のような背景や、リアルでも生物学上の性と性自任が異なる人もいるのかもしれない。しかしそれは歌舞伎役者だって同じで、歌舞伎役者の中にもそのような背景で女形となった者もいたかもしれない。前段で示したバ美肉と歌舞伎の女形の共通点は、この投稿を書いている時点ではあくまでもまだ仮説の段階であり、そのような共通点があることは明確だ、と断言するものではない。

 歌舞伎も今や伝統芸能のようなものになっているが、そもそもは庶民の風俗(≠性風俗)であり、バ美肉も同じ庶民の風俗であることも、共通点を感じる理由なのかもしれない。


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