「働き方改革」という言葉は、民間では2013年頃既に使われていたようだが、首相や政府がこのワードを用い始めたのは2015年頃で、2016年8月に働き方改革担当大臣、9月に働き方改革実現会議が設置されている。首相は「働き方改革」を「一億総活躍社会」実現の為の重要な柱としており、働き方改革というスローガンを必ずしも労働環境改善にのみ用いるわけではないが、このワードが使われ始めた背景には、労働に関する種々の法規を逸脱して被雇用者を不当に扱う、所謂ブラック企業の深刻な社会問題化や、過労死・過労自殺・過重労働による肉体的・精神的な健康被害を被る者が後を絶たない状況などが確実にあり、元来働き方改革の主眼は労働環境改善に置かれていた筈だ。
政府は昨年・2018年の通常国会に働き方改革関連法案を提出した。高度な専門知識を有し一定以上の年収を得る労働者について、労働時間規制の対象から除外する仕組みである高度プロフェッショナル制度、所謂高プロに対する懐疑的な意見もあったが、6月に与党らの賛成多数で可決・成立させた。なぜ高プロ制度の導入に懸念が示されたのか? 当初政府がこの法案に織り込もうとしていた「裁量労働制の拡大」に関するデータがかなりいい加減なものだった、というか政府・企業側に都合のよい内容に捏造されていたと言っても過言ではないものだったという事が発覚し、この部分の撤回・全面削除に追い込まれたという経緯があったからだ。
裁量労働はこれまでも一部の職種等では認められていた制度だが、対象業務の範囲が狭い、導入要件が厳し過ぎるなどとする企業・経済界側からの規制緩和を求める声によって、働き方改革関連法案に盛り込まれた。しかし規制緩和の必要性・合理性を説明する為の資料について厚労省は、一般的な労働者と裁量労働制の労働者の労働時間に関して、裁量労働制の方が適正な環境で働いているように見えるような、恣意的な(政府や厚労省はあくまでもミスだと言っている)統計結果をまとめ、それを元に首相が「裁量労働制で働く労働者のほうが、一般的な労働者よりも労働時間が短いことを示すデータもある」などと答弁した。更に統計の元になった調査票の提出を求められると、厚労省は廃棄済みの為応じられないとしたにも関わらず、段ボール数十箱にも及ぶ資料が存在していることが発覚、挙句の果てに不適切な統計のやり直しの必要性を問われても、政府は「労働時間の再調査を行う必要性はない」という見解を示した、というのが大雑把な流れだ。
政府や厚労省はあくまでも意図せず起きたミスだとしているが、政府に都合のよい方向性でのミスしか起きておらず、政府が提出した法案を成立させる為、そして不正発覚したことによる傷口を極力最小化する為に、官邸や厚労省の中で組織的な捏造・隠蔽が行われたとしか思えない。(参考:2018年2/19、2018年2/21の投稿)
この件だけでも
政府や厚労省はブラックな企業に利する政策を進めようとしていたと強く感じられるが、昨年の6月には「勤務間インターバルの導入は時期尚早」という見解を厚労省が示したり(2018年6/16の投稿)、厚労省に限った話ではないが、8月には障害者雇用の水増しが常態化していたことも発覚している(2018年8/29の投稿)。障害者雇用の水増しは、ブラック企業の話とは少し毛色が異なるようにも思えるが、本来雇用されるべき障害者を雇用しなかったという事は、障害者に対する差別、差別的な基準での採用を行ったとも言えるだろうから、厚労省を始めとした当該の行為に及んでいた役所全般にブラック企業的な体質があると言えるだろう。
更に2018年の年末には、厚労省が行う賃金や労働時間の動向を調査する統計調査に関して、決められたルールが守られていなかったことが発覚した(2018年12/29の投稿)。この件は、この数日間特に注目されている。ハフポスト/朝日新聞は「厚生省の不適切調査、約2000万人が保険の過少給付 規模は数百億円」と報じており、もしこの報道内容が概ね正しければ、最早日本はブラック企業ならぬ「ブラック国家」と言っても過言ではなさそうだ。
働き方改革や一億総活躍社会で検索すると、官邸や厚労省が制作したWebページやPDFの資料・チラシのようなものが多くヒットする。
どれを見ても美味しい言葉ばかりが並んでおり、前段までの話を勘案すれば、怪しい通販広告のようないかがわしさが感じられる。看板ばかり立派なのに、働き方改革を主導するはずの組織・厚労省が、これ程労働環境改善や労働者の保護に背を向けるような事を率先して行ってきた、というか「いる」のだから、本当に反吐が出る。
昨年は財務省でも前代未聞の公文書の改ざんが発覚し、その件や財務官僚のセクハラ事案などに関して財務大臣兼副総理大臣がパワハラ上司のような態度を恥ずかしげもなく示しており、更には国のトップである首相が、堂々と・恥ずかしげもなく嘘をつくような国であるという事も明らかになっている(1/8の投稿)。こんな状況では、政府や首相の発表・発言全てに嘘や誤魔化しの恐れを検討しなければならない。
また、日産元会長・ゴーン氏の長期拘留が合理性を欠いていること、勿論ゴーン氏に限った話ではなく合理性に欠ける長期拘留が常態化していること、ハフポスト/朝日新聞の記事「強姦冤罪の男性「友人も仕事も失い、戻れない」」からも分かるように、日本の捜査機関・検察・裁判所は組織の面子重視で人権に対する認識が低いこと、以前話題になった生活保護受給者に対する一部の自治体担当部署の態度や、読売新聞の記事「生活苦で税滞納、差し押さえで口座0円に…提訴」から分かるように、日本の行政は弱者の生活を脅かす行為にしばしば及ぶこと、ハフポストの記事「政治家のジェンダー差別発言、ワーストは麻生太郎氏 どんな内容だった?」から分かる、政府与党に性差別を厭わない主張をする者が多く存在しているということ、そんなことも含めて、
ニッポンは国全体がブラック企業体質、つまりブラック国家であると言わざるを得ない。