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東京モーターショーから考える日本の現状


 この10年で自宅周辺から多くの本屋とCD/レコード店とビデオレンタル店が姿を消した。本屋はクルマで20分程度のショッピングモールにテナントとして辛うじて1軒残っているが、CD/レコード店とビデオレンタル店は壊滅状態と言ってもよい。自分も、音楽のデジタル配信が一般化して以降はCDで購入することは殆どなくなり、CD/レコード店に寄っても、レコードでしか手に入らない音源を買う以外は、ジャケットを眺めたり試聴するだけになっていたし、2012年頃に大ヒットゾンビドラマ・ウォーキングデッド見たさでHuluを契約してからは、ビデオ店には全く行かなくなった。


 コンテンツ産業の商品というのは、基本的に内容物が重要なわけで、その入れ物・メディア、音楽で言えばカセットテープなのかMDなのかCDなのかレコード盤なのかフラッシュメモリなのかは、手に入れるタイミングで最も利便性の高い形態が最良の選択だ。勿論パッケージや付録目当てで特定のメディアでの入手が選ばれる場合もあるだろうが、そこまで思い入れがなければ、便利でかさばらないメディアでの入手が合理的だ。
 本も基本的には音楽や映像のDVDやCDに当たる物理メディアで、それらと殆ど同じではあるが、音楽や映像の物理メディアは内容を閲覧するのに再生する機器が必要なのに対して、本は当該物理メディアのみで閲覧可能である点が異なる。また、音楽や映像のデジタル流通では、実質的には期限付きでコンテンツを楽しめるサブスクリプション系/レンタル系のサービス以外に、従来のCDやDVD販売のようにデータをダウンロードして所有できる売り切り系のサービスもそれなりにあるのだが、電子書籍に関しては、殆どのサービスが閲覧する権利を売っている状況(「所有できない電子書籍」問題 サービス閉鎖後、購入者はどうなる? - ねとらぼ)であり、万が一にもサービスが終了してしまえば読めなくなる恐れがあるし、また運営の都合や判断によっても閲覧出来なくなる可能性があるのは、ピエール瀧さんが薬物事犯で逮捕された際に、各種サブスクリプションサービスが彼が所属する音楽ユニット・電気グルーヴの楽曲を閲覧出来なくしたことからも明らかで、読み捨てるタイプのコンテンツ以外は、まだまだ紙媒体で入手する利点が存在している為、本屋も明らかに激減してはいるものの、辛うじて残る店があるのはそんな理由からなのかもしれない。
 しかしそれでも、実店舗を用いたコンテンツ系物理メディアの販売は、どの分野でも衰退傾向にあることに違いはない。この傾向は音楽配信が一般化し始めた時から既に予見できた。その業界に関わっていた大手企業は当然対策を講じて対処していたのだろうが、現実を直視できずに対策を怠った企業もあっただろうし、衰退傾向が見え始めた頃には既にジリ貧で、対策したくてもできない状況だった中小・零細もあったのではないか。


 衰退と言えば、東京モーターショーは明らかに衰退傾向にある。今年のモーターショーへ出展した国外の自動車メーカーは、メルセデスベンツとルノーだけだ。日本では相応に人気のあるドイツ御三家のアウディもBMWも出展していない(出展者・参加者リスト | 開催概要 | TOKYO MOTOR SHOW WEB SITE)。


 因みに、前回・2017年はドイツからは御三家とフォルクスワーゲン・ポルシェ、フランスからはルノーだけでなくシトロエンとプジョーも出展していた(出展者リスト | TOKYO MOTOR SHOW [TMS] WEB SITE)。アメリカのビッグ3と、世界的には一定のシェアを持つイタリアの大衆車ブランド・フィアットや、韓国のヒュンダイ/キアなどの出展がないのは、日本市場での人気の低さ・未参入・撤退等が理由だろうが、それでも、日本でも一定の知名度のあるドイツとフランス勢は2017年までは出典していたのだ。


 今年・2019年の東京モーターショーは、2009年の東京モーターショーとよく似ている。2009年の東京モーターショーはリーマンショック直後の東京モーターショーであり、国外ブランドが一斉に出展を取り止めた。2009年の東京モーターショーは、前回(2007年)と比べ出展社数と展示面積が約半分になり、会期も4日短縮され13日間と大幅に規模を縮小して行われた。入場者数も61万4400人と、2007年の142万5800人に比べ半分以下だった(自工会、「東京モーターショー2009」の来場者数を発表 - Car Watch)。
 当時自分は毎回東京モーターショーへ足を運んでいた。2009年は明らかに会場がスカスカだったし、例年に比べて人出が少なくてとても見やすかったが、出展激減で見どころ自体が減っていたので当然と言えば当然だった。バブル絶頂の1989年から2007年までの20年間、東京モーターショーは幕張メッセを全面的に使用して開催されていたが、2009年は出展社数の大幅減少の影響で一部を使用せず、会場を持て余して殺風景になることを避けたのか、2011年からは東京ビッグサイトで開催されるようになった(東京モーターショー - Wikipedia #実績)。

 2009年当時、国外ブランドの出展見合わせの理由について、リーマンショックの影響だけでなく、アジアで最も成長が見込める中国市場重視に各社がシフトし、上海モーターショーへ注力した為とも説明されていた。

 今年のモーターショー期間中の週末だった10/27に、イギリスの自動車雑誌・AUTOCARの日本語版Webサイトが「日本より海外が重要? なぜ日本メーカー、新型車を北米などで先行発売するのか 弊害も - ニュース | AUTOCAR JAPAN」という記事を掲載しているのが興味深い。日本人ライターによる記事なので、恐らく日本版独自記事だ。つまり、イギリス系自動車メディアの記事だが、イギリス視点で書かれた記事ではない。
 見出しにもあるように、昨今日本のメーカーも新モデルを国外で導入した後に国内へ導入するケースが増えている、という記事である。見出しにある「弊害も」は殆どこじつけとしか思えないので無視する。気になる人は当該記事で確認して欲しい。記事では国外で先に新モデルが導入された具体的なケースを複数紹介しているが、それだけでなく、日本でも売れそうなモデルにもかかわらず、日本では導入されないモデルも複数存在している。
 例えば三菱のパジェロスポーツはSUV人気を考えれば、日本にも導入されても良さそうだが、日本では販売されていない。


アウトランダーという同クラスのモデルをラインナップしているのも、パジェロスポーツを日本に導入しない理由なのだろうが、イギリスなど両方をラインナップしている地域も多い。因みにイギリスではパジェロをショーグンという名でラインナップしていたので、パジェロスポーツもショーグンスポーツとなっている。


 AUTOCARジャパンの当該記事には、日本の自動車メーカーまでもが日本市場よりも国外市場を重視する理由として、
 以前から「日本は特殊な市場だ」と述べる開発者が多い。新車として売られるクルマの40%近くを国内専売の軽自動車が占めて、海外でほとんど売られない3列シートミニバンも全体需要の15%前後に達する。
 逆にセダンは10%程度にとどまる。そうなると「日本では軽自動車やミニバンが優先され、セダンやワゴンの開発は海外が主体になる」という。
記述がある。また、「日本の自動車メーカーは世界有数の大企業で、日本よりも海外で売れ行きを伸ばす。ダイハツを除くと、世界生産台数の80-90%が海外で売られている。そのために日本国内だけで販売される商品は、乗用車では軽自動車程度に限られるようになった。小型/普通車は大半が海外との併売だ。」とも書かれている。売上が見込めない市場が後回しになるのに不思議な点は何もない。

 これらの数字は、根拠が記事では示されていないので、果たしてどこまで正確な数字なのかは分からないが、示された日本市場の傾向は大きく実状と乖離してはいないだろう。但し「海外ではほとんど売られない3列シートミニバン」という表現は誤解を招く表現だ。3列シートミニバンは東南アジアを中心に人気のあるジャンルだ。但し東南アジアで人気なのはコンパクトな3列シートミニバンで、日本でもラインナップしているトヨタ シエンタホンダ フリードを更に廉価にしたようなモデルだ。このサイズのミニバンは日本でも相応に人気はあるが、日本で最も人気なのは日産 セレナで、1クラス上のモデルである。シエンタやフリードのクラスだと日本では軽自動車に食われるし、それを更に廉価にしたモデルなら尚更だ。つまり「海外ではほとんど売られない3列シートミニバン」というのは、海外で3列シートミニバンはほとんど売られていないという意味ではなく、日本と海外では3列シートミニバンの売れ筋商品が異なるので、ほぼ日本専用として売られている3列シートミニバン、という意味だ。
 しかしこの国内外のミニバン需要の差も、近年は徐々になくなりつつある。東南アジアの中でも3列シートミニバンの人気が高いインドネシア最初に発売された三菱 エクスパンダ―や、スズキが主に東南アジア向けにリリースしたミニバン・エルティガなどは、日本でも通用しそうなクオリティで仕上げられているし、日産もセレナを東南アジア諸国へ導入し始めている。


 なぜエクスパンダ―やエルティガは日本には導入されないのか。日本で好まれるハイト系でないからというのもその理由だろうが、単に、市場に広がりがなく売上が見込めないから、ということでもありそうだ。それは今年の東京モーターショーへ海外勢が殆ど出展しなかったことからも推測できる。今は日本の市場が優先されているこのクラスのミニバンも、恐らく近い将来、小型車とバイク同様に、東南アジア重視にスライドするだろう。
 つまり、東京モーターショーの衰退は日本の自動車産業の衰退ではなく、日本の自動車市場、というか自動車に限らず日本市場全体の衰退の表れだろう。


 日本の衰退は自動車業界以外からもうかがえる。文筆家の古谷 経衡さんが、先日行われた即位の礼についてこんなツイートをしていた。


日経新聞は「ペンス氏、即位礼の訪日見送り 米運輸長官が参列へ (写真=AP) :日本経済新聞」と報じており、米国は日本を軽視しているわけではないと言いたげだが、「格落ちした日本 - 前回の即位礼と比べて外国賓客が横並びで格下げ : 世に倦む日日」によると、平成の即位の礼に比べて出席者の格が下がっているのは米国に限った話ではないようだ。
 天皇制が旧態依然のあまり好ましくない制度と捉えらえているのか、それとも日本という国全体のプライオリティ/優先度が下がっているのかは定かでないが、G20で我が国の首相にどんなことがあったか(6/29の投稿)を考えると、後者の方が説得力のある話のように思える。9/30の投稿でも書いたように、もし日本の首相が「かつてない程世界を動かした総理大臣」であるなら、平成の即位礼よりも各国が来賓の格を下げるなんてことはなかったのではないだろうか


 リーマンショック直後の2009年よりも更に、国外からの出展が減った東京モーターショーに鑑みても、明らかに日本経済の状況は悪い。今年の年初まで「戦後最長の景気回復」だとか、「景気は緩やかに回復している」などと言っていた政府やNHKも(1/30の投稿)、流石にもうそんなことは言えないようだ。10/26には「日本がアニメーターの中国移籍を懸念―中国メディア|レコードチャイナ」という、日本の労働に対する待遇の低さを象徴する報道があり、結構な話題になっていた。つまり、現政権になって一次的に日本の株価は上昇したが、結局株価が上昇しただけで、実質的な景気の回復は殆ど起きていないのが実状だ。
 しかし、7/16にも「経済政策で自民を支持した人達は、好景感がないのに何故今も自民を支持するの?」という投稿を書いたが、未だに政権支持率は横ばいか微増という不可解な状況だ(世論調査、内閣支持率は54% | 共同通信)。今日本は確実に衰退局面にある。それを適切に認識できなければ、市場の変化を直視出来ず、もしくは分かっていたのに対処できなかった零細小売店のように、店を畳むしかなくなってしまうかもしれない。衰退局面にあることを直視できなければ、衰退の要因が何なのか、何を変えたら衰退に歯止めをかけられるのかを考えることすら出来ない。まずは現政権の政策が、ことごとく失敗していることを率直に受け止めることからだ。


 トップ画像は、ファイル:Shutter gai.jpg - Wikipedia を加工して使用した。

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