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「誤解」の濫用


 大学生の頃、家電配送設置助手のバイトをしていた。家電量販店チェーンから配送を請け負った運送会社が設置も含めて行っており、いくつかの系列店舗を担当していた為、バイトに行く度に配属される地域が違った。バイト仲間がハズレとしていたのは、1970-80年代に建てられた団地が密集する地域だった。

 配送の必要な家電はテレビ/洗濯機/冷蔵庫がその代表格で、たまに電子レンジなどもあったが、そのほとんどが20kg以上の重量物である。大型冷蔵庫の場合は100kgを超える。昭和期に建てられた団地の多くは5階建てでエレベーターがついていない(中層建築物 - Wikipedia)。つまり最悪の場合、100kgを超える冷蔵庫をドライバーと2人で5階まで上げなくてはならない。更に大抵古いものの回収も同時に行うので、古い冷蔵庫を1階まで下さなくてはならない。しかも昭和の団地の階段はとても狭い。建物や新品の冷蔵庫に傷をつけてはならないが、冷蔵庫の大きさによっては段ボールから開梱した状態で運ぶことになる場合もある。つまり肉体的にだけでなく、細心の注意が必要な精神的な重労働でもある。
 当然最もキツいのは酷暑の中作業をしなければならない夏だが、夏の暑さで負担がかかるからか、夏場は冷蔵庫の買い替え/配送が増える。


 なんでこんな話を書いたのか。それは単に「誤解」と「5階」のダジャレで当時のことを思い出したからだ。「誤解」は、真摯や印象操作などと同様に、昨今濫用によって有効性が失われつつある言葉の1つだ。それはこれまでもこのブログで何度も書いてきた。
今日、なぜ再びまた「誤解」について触れるのかと言うと、


声高に平和を訴える人ほど攻撃的
声高に差別反対を訴える人ほど差別的
声高に誹謗中傷を責める人ほど言葉が汚い
普通の声で言おうよ、正しいことなら

と言ったが、当該ツイートを削除した今野 英明さんに昨日の投稿を投げかけたところ、「あなたのように誤読して激怒する人が多かったので削除した」という返答が返ってきたからだ。詳細はやり取りは次のツイートからスレッド化されている。ツイートを削除されるかもしれないのでスクリーンショットも載せておく。



 彼曰く当該ツイートは、「「被害を受けた側に寄り添うフリをしながら、鬱憤晴らしをしたいだけの人」に対する皮肉」を込めたツイートだったそうだが、当該ツイートにはどこにもそう書かれていない。

声高に平和を訴える人ほど攻撃的
声高に差別反対を訴える人ほど差別的
声高に誹謗中傷を責める人ほど言葉が汚い

だけでは、平和を訴える人、差別の被害に晒されて差別はいけないと指摘する人、誹謗中傷はいけないと指摘する人達は全般的に偽善者だ、と言っていると解釈できる余地も間違いなくある。そのような解釈も可能な主張をしておいて、読んだ側が「誤読」したというのは責任転嫁だ。本当に彼が当該ツイートに込めた思いが「「被害を受けた側に寄り添うフリをしながら、鬱憤晴らしをしたいだけの人」に対する皮肉」だったとして、読んだ側が誤読したのではなく、彼自身が拙い表現を用いることによって読み手に誤読させた、というのがより実状に近いのではないだろうか。
 だが彼は、どう解釈しようがご自由にどうぞと言って、そのような指摘を無視しようとしている。それ以降のやり取りについては不毛過ぎるので詳しく解説する気にもならない。


 そんな反応が返ってきたので、再び彼のアカウントのタイムラインを見てみた。すると彼は、自分が昨日のブログで取り上げたツイートの1つに対して、こんなリプライをしていた。



 これが、「普通の声で言おうよ、正しいことなら」と言っている人物の主張だ。野党がいつ「アベガ―!」と言ったのだろうか。「ギャー!」と言ったのだろうか。しかも最後の与党の台詞にも都合のよい解釈が多分に含まれている。
 これの一体どこが、攻撃的でない「普通の声」なんだろう?と首を傾げるしかないが、これが彼にとっての普通なのだろう。彼自身が、彼の言う「普通の声」が如何に恣意的で意味のないことか、を証明してしまっている。前段で書いた、彼が言う「誤読/誤解」という説明の説得力も最早無いに等しい。


 という疑問を呈していた人がいたが、彼らにとって「トランプの声は普通」だから、としか言いようがない。そんな指摘をしても彼らのような人達は、「そんなことをどこに書いた?それは書いてもいないことを勝手に想像した誤解/誤読だ」と言うのだろう。確かに明確にそうは書いていないことかもしれないが、いくつかの主張から、そう考えているであろうことが強く推測される、という場合も確実にある。それは果たして誤解だろうか。誤解だと言い張れば何でも誤解になる、が妥当なら、誹謗中傷や差別/偏見の多くは誤解で言い逃れられることが出来てしまう

 昨今あまりにも「誤解」という言葉が濫用され過ぎている


トップ画像は、ファイル:Toei Tatsumi danchi tdr.jpg - Wikipedia を加工して使用した。

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