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世論調査・世論誘導


 統計や調査について少しでもかじったことがある人ならば、設問文に不備があれば適切な調査結果が得られないことは知っているだろう。「平易な表現を使う」「1つの設問で複数の内容を問わない」「選択項目に重複や漏れ生じさせない」なども重要だが、一番肝心なのは「答えを誘導するようなことを設問に書かない」だ。
 例えば、政党別の支持率調査をする場合は、単に「あなたはどの党を支持しますか?」と問うべきで、「自民党による現政権は子育て支援政策を進めています。あなたはどの党を支持しますか?」と聞いてはならない。支持政党がハッキリしている回答者に大きな影響はないが、そうではない人が「自民党は子育て支援策をやってるのか、じゃあ」と、自民党と回答することを促す恐れがあるからだ。勿論逆に「共産党は自民党政権の不適切な政策を追求しています。あなたはどの党を支持しますか?」と聞くのも、同じ理由で妥当ではない。


 この週末に、日本テレビ(NNN)と読売新聞が共同で世論調査を行った(安倍内閣の支持率…49% 6pt下落|日テレNEWS24)。


 自分もこのブログで、先週だけでも4度も触れた、
首相主催の桜を見る会とその前夜の懇親会について、公職選挙法に抵触する恐れがあると指摘され、大きく取り沙汰されたことの影響か、日本テレビの記事の見出しにもあるように、支持率の下落が調査結果に表れている。
 しかしそれでもおよそ50%の支持率を維持しており、自分には、調査結果が状況に即しているとは思えない。首相が税金を用いて後援会や支持者を公然と大量に接待していたのだとしたら、それは即総辞職ものの事態で、その件に関する首相や内閣・与党関係者の主張・見解に一貫性がない、且つ「記録はないが適切」の一点張りという状況(桜を見る会、夕食会費の明細「ない」 800人が参加―安倍首相:時事ドットコム)なのにも関わらず、有権者の半分がそれでも現政権を支持しているのだとしたら、日本の有権者の約半分は不正に無頓着、優しく言えば楽観的、厳しく言えば考え足らず、判断能力が欠如していると言わざるを得ない。


 世論調査の詳細は、https://www.ntv.co.jp/yoron/ に掲載されている。政権支持理由のトップは相変わらず「これまでの内閣よりよい」、つまり「他よりマシだから」だ。前段で触れた話だけを考えても、今の政権が「他よりマシ」ならば、日本の政治家、というか政治家は有権者の写し鏡なので、日本の有権者、つまり日本人は現政権よりも更に不正をする人間ばかりだということになりそうだ。
 更に首相や現政権の関係者が不正実な態度を示し、責任をとらずに有耶無耶にして済ませた件は、例えば「ない」と言っていた自衛隊の日報が何度も後から出てきたり、官房長官が「怪文書」と一蹴した政権に不都合な文書が、すぐに「怪文書」でないことが明確になったり、財務省で公文書の改竄という前代未聞の不正が起きたのに、調査を指揮した財務大臣が「なぜそんなことが起きたのかは分からない」で済ませてしまったりと枚挙に暇がない。
 これまでに何人も大臣による不適切な発言や政治資金の問題が表出してきたが、その度に首相は「任命した私に責任がある」と繰り返してきた。しかし度々同じ事が起きるということは、明らかにその責任を果たせていない。これで「他よりマシ」だと言っている人達は、「私はレベルの低い人間です」と宣言しているにも等しい

 前述の日本テレビの記事でも触れられているように、政権・政党支持率以外にもいくつかの設問が設定されており、その結果が掲載されているのだが、いくつかの設問には問題がある。少なくとも自分にはそう感じられる。
 次の設問は「答えを誘導する恐れのある設問」になってしまっている。設問の冒頭に「安倍首相は通算の在職日数が歴代最長となります」とあるが、日本人には「長く続く/続けることは良いこと」という認識が確実にある。それは次の設問「同じ者が長く首相を続けるのは良いか悪いか」の結果からも明らかだ。この設問で問えば、「取り敢えず続いているのだから評価はする」という結果が出るのは、ある意味で当然だろう。このような結果が出れば、それを見た人の中には「今の政権は過半数の有権者に評価されている」と感じる人も多いだろうから、これでは世論調査による世論誘導の恐れがあると言わざるを得ない。


 現政権の経済政策に関しての設問では、約70%もの人が「景気改善の実感がない」と答えている。現政権が「2019年10月の消費税増税の、増税分の財源の使途変更」「北朝鮮問題への圧力路線」について国民の信を問う「国難突破」と称して、衆院を解散したことで行われた2017年の衆院選では、勝利を納めた自民党への投票理由のトップは経済政策だったのに(なんだったんだ衆院選~データで振り返る2017衆議院選挙~ - ビッグデータレポート - ヤフー株式会社)、それからおよそ2年経って、景気が良くなるどころか悪くなっているにも関わらず、内閣支持率が約50%にも及ぶのは不可解でしかない。
 つまり支持理由のトップが「他よりマシ」であることが表すように、現政権の支持者の多くは、よく考えもせずに「自民党だから」「ただ何となく」で支持しているという状況だ。それは11/11の投稿で触れたTBS/JNNの世論調査からも明らかだ。


 次の3つの設問は、直近の政権内の問題についての設問である。2つ目の英語民間試験についての設問には、前述のTBS/JNNの世論調査と同様に、導入見送り決定が適当か否かではなく、導入延期が決定される発端になった指摘と同種の批判が、制度検討時から示されていたのだから、試験開催まで半年に迫ったこのタイミングまで導入を進めようとしていた文科省や政府の姿勢・判断の妥当性についても問うべきだろう。
 個人的には、どうにかして「適当だった」という肯定的な回答を得ることによって、「政府の判断は正しい」と印象付けたいという思惑を感じてしまう。つまり、この設問にも世論誘導の疑いがある。


 その懸念はこの「桜を見る会」についての設問も同様で、自分は、首相が「私の判断で来年の開催を中止する」と言った時点で、前述のTBS/JNNの世論調査と同様に「首相が中止を決めたことを支持するか」のような設問による世論調査が行われ、「支持する」という回答を得ることによって、あたかも首相が英断を下したかのような空気感が演出されるのではないかと危惧していたのだが、全くその通りになった
 しかも、土曜日に女優の沢尻 エリカさんが薬物事犯で逮捕され、昨日から既にテレビ局はそちらに多くの時間を割き、首相と政権の問題に関しても全く取り上げていないわけではないものの、明らかに沢尻さんの件によって政治事案が薄められているのは、誰の目にも明らかだ(武田 砂鉄さんによる、11/18テレビ欄のツイート)。
勿論沢尻さんの件など一切報じる必要はないとまでは言わないが、政府関係者がそうさせたのか、捜査機関の関係者による忖度でこのタイミングでの逮捕が行われたのか、メディア関係者が勝手な忖度をしてスキャンダルに注力しているのか、それとも単なる偶然なのかは分からないが、このような世論調査や芸能スキャンダルが、政権の問題に対する目くらましの役割を果たしているのは間違いない。



 最後の設問はハッキリ言ってかなり不適切である。次の首相に誰が相応しいかを問うのなら、少なくとも一定数の議席を有する野党代表は選択肢に含めるべきだろう。次も自民党政権で当然かのような認識に基づいた、自民党政治家限定で次の首相に相応しい者を問うこと自体がナンセンスだ。「いない」「その他」の回答率を見ても、非自民党支持者が選べる選択肢が漏れた設問になってしまっていることが分かる。



 沢尻さん逮捕について「政権に都合が悪いことが起きると芸能人が薬物事犯で逮捕される」という見解を示している人が、有名人の中にも複数いる。自分も同じような印象を報道直後真っ先に感じたし、「月曜のテレビはそれ一色になるだろうな」(逮捕は土曜日だった)と直感した。
 自分はそのような放送をするテレビ局に嫌悪を感じるのだが、文筆家の古谷 経衡さんは、


 と、寧ろ視聴者、つまり日本の有権者がそんな放送を望むからテレビ局が報道する、という考えを示している。
 この投稿で取り上げた日本テレビ(NNN)/読売新聞による世論調査には、適切とは言えない設問が幾つか含まれており、決して真に受けることはできない調査結果になっているものの、一方で、この結果に一切操作が加えられていないのだとしたら、現政権支持者の多くが「ただなんとなく」だけで支持しているのは間違いないので、有権者は公選法より香港よりガザ地区より沢尻エリカが気になっている。だからテレビもそれに合わせた番組を放送する、という古谷さんの見解は決して間違いとは言えないと感じる。寧ろその通りだと思う。

 勿論そんな大衆迎合的な日本のテレビ各局も決して褒められたものではないが、有権者のレベルが低ければ報道も、そして政治の質も下がって当然だ。日本国憲法12条には、
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。
とある。民主主義とは、国民が公権力への監視を怠ればすぐに綻び始め、いとも簡単に崩壊するものだ。大正デモクラシーから軍国主義に陥るまでの時間はたったの10年足らずだった。


 トップ画像は Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像 を加工して使用した。

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