スキップしてメイン コンテンツに移動
 

消された「日中の運動は控える」という注意喚起


 全国高校野球選手権大会、所謂夏の甲子園が昨日・8/5から始まった。今回は100回の記念大会で、東京と北海道以外にも校数の多い7府県から2校が出場し、全56校が参加するそうだ。
 日本気象協会によると、開会式と開幕戦が行われた昨日も、名古屋で40度に迫る最高気温を記録し、甲子園に近い大阪でも最高気温は36.8度という状況だったようだ。朝日新聞の記事「100回目の夏、高校野球3度目のスタートに」にもあるように、開会式では熱中症予防として給水時間が設けられたそうだが、そんな焼け石に水の対応ではなく、開催時期か開催場所の変更を検討するべきではないのか、という意見が、ネット上を中心に目立つ。個人的には給水時間を設けるという方針はある程度評価したいが、それでも「水を飲んでいい」時間を設けるのではなく、いつでも水を飲んでいいと周知するべきではないのか?と感じる。高校野球界には、未だに昭和以前の水分補給を嫌悪する風潮が残っているのだろうか。それとも高野連は、実際はいつでも水を飲んでいいとしているのに、メディアが給水時間にばかり注目して報道しているのだろうか。


 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSによると、今日の朝日新聞の1面は大々的に夏の甲子園開幕を取り上げていた。朝日新聞は高野連と共に大会を主催する立場で、当然と言えば当然の1面だろう。番組のMC・堀 潤さん、この日のコメンテーター・瀬尾 傑さんも、前段のような話に注目し、

 朝日新聞は主催なんでジャーナリズムとして(酷暑対策を)ちゃんと議論した方がいいと思うんですよ(瀬尾さん) 
 興行ばかり優先してはいけませんと、(堀さん)
 甲子園にこだわらなくたって大阪ドームでやったっていいわけだし(瀬尾さん)

と、抜本的な対応の検討を主催者である朝日新聞社へ促すコメントをしていた。確かに、大手メディアで、しかも主催者でもある朝日新聞が問題提起すれば、大きな議論が巻き起こることは間違いない。それは重症者や死者を出す前に主催者側が行うべきことだろう。

 個人的には、同大会を毎年放映しているNHKの姿勢にも疑問を感じている。NHKは先月から連日、日中の最高気温が記録されるような時間帯に、災害発生時に表示するような帯で熱中症に関する警告を発している。次の動画は、夏の甲子園開幕前日の8/4に表示された帯の一部だ。


「熱中症対策」という部分には、
  • 日中の運動は控える
  • 室内ではためらわずに冷房を使う
  • こまめに水分を補給
  • 塩分も不足しないように
となっている。



 それが甲子園が開幕した8/5になると帯のデザインも変わり、


「熱中症対策」の部分は
  • 涼しい服装で日傘や帽子の使用
  • 室内ではためらわずに冷房を使う
  • こまめに水分を補給
  • 塩分も不足しないように
に変更されている。



 日本気象協会が公表している8/4のデータ8/5のデータを比べても、前日までと気温はそれ程大きく変わらない。というか、左側の帯に表示される文言は、8/4までの「熱中症に警戒」から「熱中症に厳重警戒」に、警告のレベルが上がっている。にもかかわらず、文字サイズは小さくなり、「日中の運動を控える」 という注意喚起は「涼しい服装で日傘や帽子の使用」に変更されている。これに矛盾を感じるのは自分だけだろうか。
 確かに、炎天下で行われる運動競技・野球の試合を放映しながら「日中の運動は控える」とは注意喚起し難いだろう。しかし、ということは、そもそもこの状況で大会を開催していること自体が不適切なのであって、「日中の運動は控える」というテロップを削除・差し替えるのではなく、大会自体の中止・延期・開催時間変更を提案するべきではないのか。NHKは試合を放映する側で、半年以上前からスケジュールを組んでいるのだろうから、大幅な開催日程などの変更を好ましく受け止められないことは分かる。しかし、ならば、大会放映前から「日中の運動は控える」なんてテロップを流さなければいいのに、とも思う。そんな点から、高校野球放映開始を機にNHKが「日中の運動は控える」というテロップを差し替えたのは、自分たちの都合だけを重視した場当たり的な対応と言えるのではないだろうか。

 2020年には東京オリンピックが予定されており、今年と同じような気象条件であれば、開催期間はかなりの暑さに見舞われる。今年のような前例があるにもかかわらず、「日中の運動は控える」レベルの暑さの中で大会を開催し、万が一競技者・観客・スタッフに重症者や死者が出たら、一体誰が責任を負うのだろうか。もしそんな事態が起きたなら、大会後にオリンピックは成功したと言えるだろうか。組織委員会長や首相が「サマータイム導入」なんてことを検討しているようだが、今年は朝7時過ぎの時点で30度を超える日が多くあった。たった2時間だけ時間をずらしたところで、本当に効果的な対策になるのか疑問だし、その為に一般国民が強いられる不便はかなり大きいとしか言いようがない。オリンピックとは一体何の為・誰の為に開催されるものなのだろうか。


 高校野球にしろ、オリンピックにしろ、主催者側の都合が過剰と言うべきレベルで優先されているとしか思えない。特にオリンピックに関しては「アスリートファースト」というスローガンを掲げていたように記憶するが、それは一体どこへ行ってしまったのだろうか。高校野球も同様で、高校生の甲子園に対する憧れを、朝日新聞が宣伝の目的で、NHKが視聴率という実績の為に利用している側面が確実にある。勿論そのような側面がなければ大会の存続自体も難しいことは理解するが、どうにもバランスに欠けているような気がしてならない。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。